第127話 呪われた女

僕は、12歳の少年を愛でる変態に誘拐され、一緒に寝た訳だ。


…何もされてないよね?

泉にザブンと入ってしまったからもう確かめようがない。

信じよう。

この女の人の良識をではない。


泉の水の清らかさをだ。



「ここから離れよう。

本当は服を乾かした方がいいと思うけど、身を隠してから乾かそう。」


そうしよう。


「待って…。」


なに?


「いいよ、行こうラルフ。」


「助けて欲しいの。」


…なにさ。


「何でもかんでも聞かなくていいよ。

いい?

お姉さん。

僕は怒っているんだ。


困っているからって連れ去っていい訳じゃないんだよ。

みんな心配したし、ラルフは凄く疲れていたんだから。」


ピリルルが凄く冷たい目をしている。

友達として、弟としてのピリルルしか知らなかったから新鮮だな。


「あ、ちょっと刺激が強い。

こっち見ないでほしいかも。

いや、見て欲しいかも。


あっ!ごめんなさい、行かないで


お願いがあるのは本当なの。


説明も出来なかったし、本当に偶然だったからこうするしかなかったの。


ただの趣味で連れて来た訳じゃないんだから。」


趣味って単語が出たら信憑性薄まるって。

でもなんで僕なの。

人に伝わる様な人助けした事なんてないよ。


「あなたの絵本を読んで最近知ったんだけど、神話でもなんでもなくそうした記録があるのがラルフだけなの。」


えー?

なんかしたっけ。

あ、あれかな?

暇すぎて作ったトランプタワーが前人未到の3段に達したやつ。

あまりの達成感にすっごいティナに自慢したから、人に伝わっちゃってるかも。


「違うでしょ。」


「うん、違う。

人の呪いを解いた話があるの。

なんとかさんっていう女の人の呪いを解いたって。」


…女の人の呪いを解いた?

うーん、心当たりがないな。


エマさん?

ティナ?


あ、違う。

確かに呪いを解いたとは違うか。


リナリーンとリリーディアは…違うわ。

呪いの様な妄執なだけで、呪われてはいなかったから。


エアリスは凄く一途なだけ。


アンヌ、シーさん、ララさんは正常そのもの。


病気の子供達とエリズさんは治療はしたけど、呪われてはいないし、あれは医師としての仕事で、あれを救いと取られると世の医師全員が全員、神様になってしまう。


僕がこの世界でちゃんと関わった女の人はこれで全部だ。


「呪いを解くなんてかなり専門的で難しいはずだよ。


ラルフが色々して来てるのは知ってるけど、本来なら熟練の聖職者を集めて簡単な呪いを解けるくらいなんだよ。


それでアンタはなんの呪いに掛かってるのさ。」


あ、確かにね。


「一度寝ると竜になって三度眠ると人になる呪いなの。


カードの発売日に合わせて人になるの大変だったんだから。」


あの竜に変身するのは呪いだったんだ。

確かに大変そうだ。

あんな岩の隙間をねぐらにしてるのも、人里に住み着けないからか。


「そうなの。

すっごい大変だし、退屈だし。

他の竜と仲良くなれる訳じゃないし。


だから呪いを解く方法をずーっと探していたんだけど、全然見つからなくて。


いつも人間でいられる間に買い物しているんだけど、その時偶然買った本にラルフが呪いを解いた事が書いてあったから会ってみたかったから、つい連れ去ってしまったの。」


なるほどねぇ。

ちなみにその本のどの辺に書いてあった?


…ふんふん。

お父さんが若返った話の辺りか。


…?

あの頃はまだカルさんとサンドラさんとお父さんしか会ってないよ。

男しかいないって。


「それ!

サンドラ!

男なの?

女の名前なのに。」


あ、そういえばそんなこと言ってたな。

なんか村では魔女対策に子供に女の子の名前つけるって。

結局大人になっても名前を変えてないってことかな。

そういえば結末まで見てこなかったけど、生贄お見合いどうなったかな。

帰った時の楽しみにしておこう。


そういえば確かにサンドラさんの呪いは解けた。

あれのことか。


…あれは完全に命懸けの偶然だったからなぁ。


でもわかったよ。

まず診察させてね。


「わかる?ラルフ。

呪いは複雑だから、把握するだけで完全に臓器の機能を理解するレベルの知識と、かなり量のの魔力が必要だと思うよ。」


両方とも備えているよ。

偶然にもね。

じゃあ触るよ。


…そのプルプルするのやめて貰っていい?


「いいよ!

触って!


あ、だめかも!

耐えられないかも!」


いや、いいよ別に気絶してたって。

あ、ダメか。

竜になっちゃうのか。

竜になられたら僕の知識が完全に効かなくなる。


「目隠しでもしたら?

はい、ハンカチ。」


ピリルルがポケットからハンカチを差し出した。

きっとリリーディアに持たされているんだろうなぁ。


「もっとダメかも!

香りが!

少年の香りがするはず!

目を塞ぐと触られるのに集中しちゃうし死ぬかも!」


やめよう。

もう、諦めようか。

帰ろう。


僕らが呪われそうだ。

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