第123話 ハスラー

さて、材料はいくつかある。


まずは舐められてることだ。


圧倒的にヤイシャの方が素早いのに、必ず正面から攻撃して来ている。

それは付け入りやすい。


罠でも仕掛けてみましょうかね。


対獣の基本だし。


お?

なんだ?

ひっさしぶりにこの姿になったが、前より魔力が練りやすい。


成長しているって事かね。


とりあえずいつもの爆弾で様子を見るか。

自然界にないだろ?

爆弾なんて。


俺はまた足元に魔力を溜めると棘の準備をした。


ヤイシャはまた少し姿勢を低くすると真っ直ぐ突っ込んできたので、道中に棘をだす。


ただの棘じゃない。

中身は空洞で水と火でパツパツのいつもの爆弾を棘で偽装しているだけだ。


ギリギリで避けたら怪我しちゃうよ。


するりと抜け出そうとするヤイシャに爆風が襲う。

一つ目は面食らった様だが、二つ目以降はヤイシャの魔法で不発だ。

コイツ、水魔法使いか。

棘の表面は固めた土で、擬装なのでペラペラだ。

濡らされて柔らかくなって穴が空いた時点で、爆弾としての効力を失う。


そのまま抜けてこようとするヤイシャ。


はっ。

棘爆弾は不発だったけどな、普通の棘もあるんだよ。


こっちはぎっしり土だ。

多少濡れても問題ない。

鋭くは無くなってるけどな。


今まで避けられていただけの棘が一つだけクリーンヒットした。


少しだけよろけたヤイシャに向かい剣を振る。


しかし身体を捻られ剣を避けられ、そのまま後ろ足で蹴られてしまった。


…大した威力じゃない。

本当に驚かせられたようだ。

ただ距離を離すためだけの蹴りだった。


なかなか理想的な動きができて、ここまでで一番大きな隙を作って斬りかかって、それでもまだヤイシャの方が速い。


ダメかも。

こっちの攻撃は当たらないなこれ。


次だ次。

来いよ。

楽しくなってきたろ?


ヤイシャがまた突っ込んでくる。

まーだ舐めてるな。


もう一度棘を出すと、今度は飛び越えられた。

バカめ!

地上戦を続けられた方が手詰まりなんだよ。


俺はそのまま風魔法でヤイシャを浮かせると、剣で突っ込んでいく。


しかしシャボンの様なもので包まれたヤイシャに攻撃は通らず、逆に尻尾で跳ね飛ばされてしまう。

そのまま追撃されるとまずい。

咄嗟に更に風を強めて、ヤイシャを押し飛ばしたが、綺麗に着地されてしまった。


地上より可能性があると思ったが、魔法のガードが固すぎる。


いや攻撃が出来るというところを評価するべきか。

距離を離すのも簡単だった。

風で押しただけなのに意外と簡単に流されていった。


魔法のガードか…。


…なんとかなるかも。


ヤイシャが突っ込んでくる。


俺は足元に魔力を溜める。


もうバレバレだろう棘。

しかし今度は自分も突っ込んで行く。


人間には邪魔で避けられない棘のジャングルだが、問題ない。

今回の棘は無魔法で作った実態の無い幻だ。


ステップの準備してたろ?


虚をついた分こっちの攻撃の方がタイミングが良い。


完全に当たると思ったが、ヤイシャが足を止めてまた水の膜を張り、守りに入った。


はは、それも幻だよ。


俺が突っ込んで行ったところでどうしようもないのだ。

かすり傷を与えたところで、そのまま無理矢理にでも攻撃されたら終わりなのだから。


足を止めさせたかっただけなのだ。


ヤイシャと俺の足元が光る。


棘だと思ったろ?

ペリンの時、狩の時に使った塔で二人を思いっきり跳ね上げた。


今回は維持に力を使ってない分高いな。

完全に森の上だ。

自由落下したら死んでしまうだろう。


ヤイシャの水の膜は耐えきれちゃうんだろうな。

維持できればの話だけどね。


俺は打ち上げられた二人を突風で押し出した。


このまま、すっ飛んで行ってもまだ無理。

膜の分ヤイシャのダメージがないからどうしようもない。


でも吹っ飛ばす方向によるのだ。


この先は遺跡だ。

この世界の生き物全てに関係する、魔力を消し去る遺跡。


出来ればヤイシャだけ吹っ飛ばしたかったが風を一人だけに浴びせるなんて無理だ。


ガードもなし、魔法で上げた身体能力も落ちた状態でこの高さ、この速さで地面に叩きつけられて、お前は無事か?


ちなみに僕は無事じゃない。

前回で吹っ飛ばす為に魔力を使った結果姿も子供に戻ったし、もうどうしようもない。


あとは撞かれたビリヤードの玉のようになすがままだ。

丁度まぁるい水の膜で覆われたヤイシャにはお似合いだ。


救いはキチンと遺跡にポケットインしそうな事ぐらいだ。

手玉である僕は手前で離脱する予定だったけど、魔力切れでそれは無理そうだ。

ファールで相手の出番になるルールじゃないことを祈るよ。

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