第122話 ヤイシャ戦

ヤイシャからしたら加護を与えた者が捕えられて、それを人質に挑戦を受けるため駆けつけた形だ。


誤解はすぐ解けたが、挑戦を受けた事は変わらないし、獣にとって獣神に挑むだけで名誉だ。


それではやろうとなったら挑戦権を持つのは助けに来たはずの人質だ。


なーんでそうなったの?

とこの場にいる全員が思っているまま舞台が整えられた。


「まさかラルフが長となっているとはな。

…いや、本当はルールから逸れているのだが、その説明は後にしようか。


ただ戦いを楽しもうではないか。」


全然戦いは好きじゃないんだけど、魔力差だけでも身体が弾け飛んだ相手だ。


戦いは好きじゃないんだけど、成長したか試すのは大好きだ。


全力を尽くそう。


戦いの場所として里から少し移動する。

ヤイシャのオーラのせいなのか全然獣が現れないし、気配もない。


カカシャと戦って分かったのだが、獣はしなやかだ。

人間だと明らかに真っ直ぐ来る動きをしていても、4本足で滑らかにステップし、ズレる。


人用の技術では綺麗に受けられないので、大変だった。

サイドステップも相手の方が深く切り替えせる。

よってカカシャとやった時はカウンターがメインだった。

攻撃を貰って、返す。

これしか出来なかったのだ。

慣れで上手く貰えるようになったという成長しかしていない。


ヤイシャが頭を下げてジリジリ立っている。


プレッシャーがカカシャと比じゃない。

エアリスとかリリーディアの龍クラスだ。


カカシャと同じ戦法はダメだろうなぁ。


…一回だけ貰おう。

一撃で決める気はなく様子見する事に賭けよう。

せめてタイミングを測らないと何も出来ない。


クッとヤイシャが姿勢を下げたかと思うと、前足がもう目の前にあった。


あぁ…。

やっぱり優しい獣だ。

爪も立ててなければ、全力ですらない。


これは受けられる。

ただ寄りの早いお手だからね。


龍の腕輪を左腕に広げて防ぐ。

ただのお手だろうが衝撃が凄く、そちらばかりに気を向けていられない僕の左手は恐らく折れた。


カウンターを取ろうとしたが、軽い攻撃過ぎて向こうの準備が整い過ぎている。


ステップで簡単に距離を取られてしまった。


とっとと聖魔法で腕を治そう。


ヤイシャは馬と犬の間くらいの生物だ。

頭と首が馬の様で、足が犬のようだ。

胴は両方の特徴がある様に感じ、尻尾は大きい。


…首がある程度長い動物は噛み付かないイメージがある。

高いところの木の葉を食べるための進化だからだ。


この世界でも同じ理論かはわからないが、どうせ対応を絞るしかない。

全部を防ぐのはどう考えても不可能だ。


さぁどうしようかな。


とりあえず身体が沈んだら地面から棘がたくさん出る様に土魔法を使おう。

リナリーンが得意としてるやつだ。


ふわっとしバックステップで距離を取ったヤイシャは、横に少し歩き様子を見たあとに、また姿勢を下げて突進して来た。


予定通り足元に魔力を溜めて棘を出すが、やはり想像していた通りにスルスルと抜けられ、また前足を出して来た。


今度はステップを入れた分少し到達が遅い。


腕輪を剣にして思い切ってそのまま前足を斬りに出てみる。


上手くタイミングを取れたはずだが、速度の差のせいで上手く刃を立てられず、力の差でこっちが競り負け吹っ飛んだ。


「はっは。

今のは惜しかったの。

その武器は龍の物だな。

流石にそれは上手く振れられれば傷がつくな。


さ、力を見せてくれよ。」


はぁ、全然余裕じゃないか。

せめて方針を決めないと、上手くやったところで勝ち目がないな。

身体能力が違いすぎる。


よし、大人の僕に任せよう。

あいつの知恵は悪辣だから、なんとかしてくれるでしょ。


僕は死魔法を発動して大人の姿になった。


はっは。

身体が精神を引っ張るのか、こっちは身体能力の向上より戦法的な意味での成長がある。

今までそれが助けてくれたからな。


「おぉ。

まだ隠していたか。

楽しみだ。」


うるせーよ。


とはいえ、不利なのは変わらないが自分がいい戦いをしてくれていたからな。

ワンチャンだけあるな。


来いよ。

犬か馬かよく分からないから煽る為の言葉も浮かばねーが、賢さ特化した動物の力を見せてやるよ。


…出来ればあんまり突飛な行動はしないでね。

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