第119話 期待に応えよう

もう2日ほどカカシャの里に足止めされている。


里長との対戦で勝ってしまったからだ。


最初は獣特有の動きに翻弄され簡単に転がされた。

しかし、公式ルールで7戦4勝先取との事で徐々に慣れてきて勝ち越し、7戦目までもつれた戦いは僕の勝利に終わったのだ。


なんだ公式ルールって。


いやぁ、楽しかったなぁ。

初めて互角の相手と目一杯スポーツマンシップに乗っ取った戦いが出来た。


爽やかな気持ちで二人で水を浴びながら汗を流していると、何かの準備が始まった。


そういえばお昼時か。

何を食べるんだろう。


なんかお祭りみたいな規模だな。

群れ全体で用意したらこうなるのか。


「さ、そろそろ行こう。」


うん。


長の後ろをついて席に着くと、お誕生日席のような場所だ。

ゲスト扱いしてくれているのか。

優しい里だなぁ。


「さぁ、皆に料理は行き渡ったであろうか!

今日はめでたい日だ。

我に勝利し、新たな長となった男だ!」


皆が歓声をあげる。


いえー!

ふー!


…え?

…うっそー!


僕が?

公式ルールって長の争奪戦のルールか!


いや、困るよ。

目的のある旅なんだ。


遅れて困ることはないけど、責任のある立場に置かれるのは困っちゃうよ。


「クゥン」


わ!

凛々しい犬が、しょぼくれワンコになった!

ずるいよ…。


50匹くらいのワンコが一斉に落ち込んだり、ウルウルした目でこっちみたり…。


なんでそんなに僕を長にしたいのさ。

なんか困ってることあったら力になるから聞かせてよ。


「ないぞ?

ただの獣の掟だ。」


ない!

なかった!


…もしこのまま無理やり僕が旅立つとどうなるの?


「もちろん全員でついて行くぞ!」


50匹の犬を連れた少年…。

町になんて寄れないし、森から森へ辿る旅になるのは元々の目的からかなり外れるし、町で少しは目撃されたりしなきゃいけないのだ。


いや目立つけど必要な目立ち方じゃなさすぎる。


どうしよう。

とりあえずお腹を見せてる元長の子を撫でよう。


誰かを鍛えて僕を越えて貰おうか…。

いや、いつまでかかる計画なんだ…。


わざと負けるのも納得されないだろうし、7戦目のプライドを賭けた戦いをやったあとにはそうする気は起きない。


走って逃げちゃおうかな…。

うぅ、ハフハフ言ってこっちを笑顔で見ている犬を騙してはいけないなぁ。


「とりあえず我がこれまでやって来たことを見たり、参加したりしてくれないか。

いきなり長と言われても困るだろう。

我々と生活も違うはずなのだ。


まず狩りの様子など見て欲しい。」


…そうしようか。

そうだね。

なにか方法が見つかるかもしれないもの。


「では普段5チームに別れているので、そのうちの1チーム率いてくれ。

食べられる獣はみんなわかるから相談してくれればいい。」


わかったよ。

じゃあ僕は子供達を率いるよ。

仮にも長だからね。


「流石だ!

流石我らが長だ!」


ワオンワオン遠吠えが響き渡る。

やるからには一番大物を獲るぞ。


しかし僕にはどこに獲物が居るのかさっぱり分からない!

なのでペリンを見つけたように土の塔を建てて司令官をすることにしようかな。


木の倍くらいの高さの位置まで上げて、辺りを見回す。

木がガサガサ動いているとこがあるのでそこに風を吹かせてみる。


…何かいるね。

さ、4匹で突撃!

ヤバかったら呼んでね。


お、そこから少し外れたところにも居るね。

そっちは少し大きいから6匹で行ってね。


さて、僕は気になるところがあるんだよねぇ。


明らかに風でのサーチを妨害されているところがある。


僕はそこへ行こう。

いやぁ空の飛び方考えておいて良かったなぁ。


前にやったようにハングライダーを魔法で作り、異変のある場所まで飛んで行った。


後で考えたら当然なんだけど、異変のある場所に近づいた瞬間魔法が消失した。


とんでもないスピードで、風魔法のブレーキのないフルスロットル状態で突っ込んだ先に石の柱があり、例えるならトマトケチャップになった僕は、久しぶりに訳のわからない状態で神様の前に居た。


「この突発的な感じは久しぶりですね、ラルフ。」


え?

あ、死んだ?


あ、そう。

なんで?


「これこれ、この感じがラルフですよ!」


…怒ってもいいと思う。

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