第118話 森の犬さん

なんかいっぱい犬がいる。

僕はそのなかの子犬の集まりに放り込まれ、夜を明かすように伝えられた。


モフモフ天国かと思いきや、大分犬くさい。

もう、なんか、動物園みたいな匂いする。


なんか気まぐれに顔を舐められるし、手をアムアムされている。


繊細な人間だぞ!

こんな中で寝られるか!

と思ったが、気がついたら朝だった。


これか!

旅人の才能って。


でも癒し効果が迸ってたから、普通に眠れたかもしれない。

あぁ!

でも、やっぱり犬くさい。

洗おう。


外の何もなさそうな所で水魔法を浴びてると、一緒に寝た子達が飛び出て来て、一緒にずぶ濡れになった。


もう臭いが取れたかどうだか分からないけど、どうでも良くなってきたので、細かい泥で犬達をコネコネしておく。

なんかそんなパックがあった気がするし。


「おぉ、起きていたか。

子供達と遊んでくれてありがとな。


昨日の夜に遠吠えでヤイシャの加護を持った者が来た旨を伝えてあるから、気が向いたらおいでになるかもな。」


そっか、一度しか会ったことがないけどよく覚えているよ。

僕が召喚したら応じてくれたんだ。


それで、その時は僕がグロい名前を神様につけられていたから暗唱できなくて契約は出来なかったんだけど、神様の何かに触れて神獣格になったらしい。


「ほう、お前はヤイシャ様を呼べるほどの実力者なのか。

凄いな!


子供達と手合わせしてみるか?」


えー。

あんな小さい子達とやり合うのは気が引けるよ。


「戦士だぞ!

僕は!」


ごめんよ。

そうなんだね。

失礼しました。


でも僕もまぁまぁ戦えるんだよ?


昨日最初に会った子だね。

…名前はなんで言うの?


「名前?

名前ってなんだ?」


え?

名前は名前だよ。


「あぁ、我らに人のような名付けはないのだ。

長だけが持ち、その群れはまとめて長の名を名乗る。


個人は匂いでわかるし、呼ぶのだって個々で呼ぶことなんてないしな。」


ほへー。

文化の違いってヤツだね。

ここの長の名前はなんで言うの?


「カカシャだ。

ヤイシャの配下のカカシャ。

俺がそうだ。」


あ、おっきいワンコが長だったのか。


「この集落で一番強い者が長なのだ。

子供達と戦うのが嫌なら、我とやろうか?


背中をつけた方が負けで、殺傷が目的ではない。

気楽にやれ、幼い者と戦うのも長の務めだ。」


そっか!

ならお願いしようかな。

胸を借りよう。


同年代とやった初陣はいいものの、その後は妖怪ジジイ、魔女、龍、龍とイカれた戦歴の実力を見せてやる!

自分で悲しくなるほどの意味不明な戦歴だ!

本当にそれとしか戦っていないのだ。

とるに足らない相手とか、大人数で襲われて、とかを経験してからの相手だと思うんだけど。


じゃあカカシャの長、やりましょうか。

精一杯がんばるぞ!



そうして僕は、カカシャの長となった。


なってしまった。

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