第117話 ここをキャンプ地とする

旅立ちは大変だった。


姉ーズは泣き、喚き、吐き、約束を取り付けられてしまった。

報告用の手紙を書く事を。


聞くところによると、上空のある程度の高さまで紙程度の重さを飛ばすと、気流の関係で中央の砂漠地帯に飛んでいくらしい。


どこからどう飛ばそうともそこらへんに落ちる事を利用して、手紙を受け取るとの事だった。


王国から砂漠の中央はとても遠いが、龍の国はその中央部の上空にあるらしく、哀れなスピラヴェラが毎日取りに行くそうだ。


龍の国に届くだけで、なぜティナも大人しくなるのかと言うと、しばらく帰って来なかったら期間に龍の国で働き始めたようだった。


龍の後始末をした場所にリリーディアと赴き、鎮魂しているそうな。

死霊系の魔法は神様から能力をもらった状態でもティナの方が上手だったからなぁ。


よって龍の国にさえ届けば、姉ーズは問題ないのだ。


日記とかあんまり得意じゃないんだけどなぁ。


ちなみに一緒に出発するつもりで、共に姉ーズを説得していたピリルルだが、初めから同行は出来ないようだった。

龍の国で色々やらなくてはならないとのことだった。

忘れていたが王族なので、色々片付けてから追いつくと言っていた。


あっちはあっちで面倒そうだ。



西に歩を進めながら、辺りの植栽なんかを見るが、やはり異世界なんだなぁという感じだ。

もう長い事いるけど、殆ど屋敷から出なかったし、リナリーンのところにいた時もほぼ城にいたし、全然実感がないのだ。


もらった地図を見る限り、一番初めに到着するのは大きな河が流れる町のようだ。


住んでいた王国からやや南寄りの西側にあるそこには徒歩だと順調に行って3日ほどの予定だ。

んー。

教会の本山まで3ヶ月はスムーズに行ってもかかりそうだなぁ。


ま、急ぐ旅ではないし良いんだけどさ。


ちなみにラルフィード行脚を模すと言った手前、無一枚で乗り物もない。


ラルフィード様は各地で人々を助け、促しながらお礼や施しで生きていたそうな。


…あのゆるい神様が?


でも、たくさんの人々を助け、彼らの運命を変えていったことから運命の神様の別名があるらしい。


そう、本では別名になっていた。


基本は主神。

旅の神とか、美の男神とか万人の夫など色々な別名で表記されてる場合もあった。

なんで宗教本って名称を統一してくれないのか。


万人の夫?

何してきたんだあの人は。

今度聞いてみよう。


大まかに分けた今日の分の目標行程が達成され、人気のない山道に入りここをキャンプ地とする準備を始めた。


焚き火をおこし、土魔法の器で水を温めて、持ってきた肉を茹でている。


パチパチと音がなり心地いい。


木と木の間から見える、昼と夕方の間くらいの空は赤と水色が混じり心が安らぐだろう。


ここに1人でいられたならの話だけどね。


明らかに人の気配がする。

可能性は3つ。


単純に子供の一人旅を狙った盗賊だ。

全然あり得る。


次にティナか、ティナの死霊。

これもあり得る。


もう一つは、勝手に護衛がついてるパターン。

教会かお父さんか国かは分からないが、正直一番可能性が高い。


木の上へと登り、無魔法で姿を消して様子を伺うと、山側の茂みがガサガサと揺れた。


息を潜めて様子を伺う。


すると茂みから、白い犬が出てきた。


あ、野生動物の可能性を考えてなかった。

そりゃいるよね。

そりゃそうだ。


犬は辺りを伺いながらフンフン臭いを嗅ぎ、茹でている肉を見ている。

あぁ、ご飯が取られそうだ。


しかし焚き火があるので取るにとれないようだ。


所詮は獣よ!

人間の知恵を舐めるなよ!


と心の中で呟いた瞬間、犬が水魔法を使って消化してしまった。


え、それはずるいじゃん。

仕方ないので石でも投げて追い払おうとした瞬間、犬がしゃべった。


「お父さーん!

火を消したよー。


お肉入ってたけど誰もいなかった!」


いや、しゃべるのかい!


思わず口から出てしまった。


犬はびっくりして固まり、僕もびっくりして魔法が消えてしまった。


…こんにちは。


「…こんにちは。

あ、夜だから、こんばんは。」


あ、はい。

こんばんは…。


「何かあったのか?」


奥から大きな白い犬が出てきた。


…こんばんは。


「…?

なぜ獣の言葉が分かる。」


え?これそうなの?

分かるよ。

…なんで?


「我が神の気配があるな。

加護があるようだ。

人に見えるが、仲間か。


怯えなくてよい。

何もせん。


ただ、人が入るはずのない所に火があったから確認しにきただけだ。」


あ、そうなんだ。

人が入るはずのないって、道から少し逸れただけだよ?


「うむ。

迷子か。

ここは神獣の森でな。


よそ者は気付きにくく、入って来ないのだ。

お前は加護があるようだから、普通に入ってしまったのだろう。


ついてこい。

なにもこんな所で夜を明かすことはなかろう。」


おぉ!

ありがたいね。


最初に会った外の人が人ではないのに思うところはあるけど、心安らかに休めそうだ。


二人について歩く。

当然歩き慣れていて静かに歩いているが、僕はパキパキと枝を踏み折ってしまう。


その度に子犬の方が心配そうな目でこちらをチラチラ見るのだ。

その視線の意味は言わなくても分かる。


多分こうだ

大丈夫?獣失格じゃない?

よちよちの子供なの?


恐らく正解だ。

いつのまにか寄り添ってくれているし、ハラハラ感が伝わって来ているのだから。


心安らかに休めないかも。

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