第114話 救いを救え

ネズミでの臨床を数度繰り返し投与量の割り出しを進めて、近所にいて気になっていたなんか毛のあんまりない犬っぽい動物も問題なくクリアし、自分に投与し、体調に問題が起きないことを確認した。


そして自分に投与したことでホルモンバランスの変化とかではなく、無理矢理毛根を生き返らせている事がわかった。


よって問題は起きにくいだろう。

いよいよ、困っている人に投与する番だ。


心当たりがある。


身内に困らされ、頭髪を気にしている人を知っている。

もしかしたら兜も良くないのかもしれないが、やはり実父に困らされている事が原因であろうあの人だ。


僕は1人で兵舎へ向かった。

何故1人か。

ピリルルは帰ってしまったからだ。


ここに来た時に買っていった可愛い便箋に書いた手紙が届いたのだ。

1行のスペースに5行を入れる力業で書かれた長文レターは、弟を震え上がらせるのに十分な威力だった。


1枚につき15000文字をこえる短編怨嗟集が5枚。

その呪いを収めるべく色々と買ってから大急ぎで帰ってしまった。

うちの姉はまだ帰らないのに。

何はともあれ、苦労の多いピリルルの分の薬は念の為べつに保管して、残りを試してもらいに来たのだ。


こんにちはー。

ブランドさん居ますか?


「お、神子様。

お待ちください。

只今確認してまいりますので。」


…あぁ…。

今日の受付は聖騎士側の人だ。

対応でわかる様になってしまった。


臨時小児治療をした日から教会に所属する人達の僕に対する態度が、一変した。

いや、悪化したと言っていい。

元々シャルル戦の後から、子供に対する態度ではなくかなり丁寧に接されていたのが、人によっては話す際に立ってもくれなくなった。


片膝を立ててしゃがんでしまうのだ。


正直怖い。

特に助けた子供達の親が酷い。

毎朝屋敷に祈りに来る。


すごく怖い。


と、言うわけで前のように立って待っている気持ちでいたんだけど、明らかな貴賓室で待っている。


わざわざ魔法を使って作ったであろう氷の入った飲み物と、角が立ったお菓子が出された。


VIP扱いだ。

どんどん戻れなくなって来てる…。


「待たせたな、ラルフ。

俺になんか用か?

もしかしてまたジジイがなんかやったか…?」


椅子から謝罪のために腰を浮かせている…。

なんて悲しい習性だ。

もう謝る体制が出来てしまっているんだ…。


いや、違うよブランドさん。

今回はお願いがあって来たんだ。


「おお!

そうか。

ラルフには迷惑かけたからな!

出来る事なら協力するぞ。」


…しまった。

本人を前にしたら言いづらい。


ブランドさん、ハゲて来てますよねって。

爺さんのストレスで後退してきてますねって言える?


遠回しに言おう…。


「なるほど、もしかしたら毛が生える可能性があるのか。

確かに困っている奴は騎士には多かろう。


傷には効かないのか?

そうか。

ならその様にして候補者を絞ろう。」


あ!

ダメだ!

真面目過ぎて自分を除外している。


報われる事に慣れていないんだ!


あの、出来ればブランドさんに試してみて欲しくて。

確実に効く訳ではないし、何回も会ってるし、試してはいるけど万が一何かあったら場合対応しやすいから。


「…そうか。

わかった。

責任を持って俺が使おう。


しかし、もし俺に効いたらで構わないんだが…。

治療をお願いしたい奴がいるんだ。

構わないか?」


あ、だから怪我に効くか聞いてたのね。

それはもちろん構わないよ。


悩んでる人が居るなら一緒に進めようか?


「おう、頼む。

連れてくるな。」


しばらく待った後連れて来たのは女性だった。

鎧を着けていて、兜を外した彼女の左半分は酷い火傷跡で、頭皮にも達していた。


「こいつは王妃の近衛でな。

まぁ、色々あって王妃を守った時に傷を負ったんだ。」


そうか。

守った時の傷なのか。

じゃあ、治さなければ。


「急になんなのだ、ブランドさん。

こちらの少年は?」


あ、ラルフと申します。

サシュマジュクの孫と言ったら分かりやすいでしょうか。


「存じております。

神子様。

はじめまして。

申し訳ない、顔を拝見した事がなかったもので。

姉の息子も救われたとか。

ありがとうございます。」


いやいや、いいんです。

普通にしてください。

ほんと普通に。


それで、今回試していただきたい薬がありまして。

僕の様な子供が作った物ですが、なるべく安全性には気をつけて、動物でも試しましたし自分でも試しました。


「はぁ。

いえ、私で力になれるなら。

それで、そちらはどう言った薬です?」


毛生え薬です。

初めは知り合いでやり取りのしやすいブランドさんに話していたのですが、貴女も患者に含めて欲しいとの要望がありましたので、お話ししています。


「…自分では名誉なので、そんなに気にしていないのに。

傷病者にも効くもの?

恐らく根本から傷んでしまっていると思うのだけど。」


僕が考えている方法を試す事から始まりますので絶対は言えません。

騎士の戦いと同じです。

全力を尽くしますが、結果は別です。


「なるほど。

貴方の戦いというわけだな。

それは医師から騎士への挑戦という訳だ。


…よろしく頼むよ。

妃様が私の傷を気に病んでいるんだ。

アンタがやってくれ。」


おっけー。

任せてよ。


「はっ。

本性はそれか。

ジジイ師匠みたいな奴だな。」


やめてよ!

手元が狂うよ!

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