第112話 治療 その1
さ、やることがある。
御者をしていた男に動ける大人を集める様に指示を出し、まずは自力で起き上がれない重病児から診ていくことにする。
その際、御者以外にも5人ほどついてくる様にお願いした。
2人は知識を広める係、もう2人は情報を集積する係、そして1人は総責任者のお父さんだ。
元々この世界で数少ない子供を診られる医者の面も持っている。
今後僕がいなくともある程度動ける様に、僕と直と繋がっているお父さんが責任者に向いている存在で本当に助かった。
彼らをそれぞれの長にして回る組織を作るのが最終目標だ。
今回でそれを完遂は出来ないが、組織ごと成長していけばいい。
それの足がかりを僕の意味不明に増えた名声を使って医師団を作ってやる。
「2人旅に出たと思ったら、たった2日で呼び出されるとは思わなかったぞ。
だが、私の目標とも重なる部分があるな。
お前の今回の案は嬉しいし、誇らしく思うぞ、ラルフ。」
よし、じゃあ出発しよう。
まずは御者さんの家からだ。
理由は幾つかある。
身内が安定していないと焦りが出るだろうこと、子供の僕が診ても信頼してくれるだろうこと、信頼してくれた人を癒せることが出来れば次につながる事がある。
疑われた状態での治療は難しい。
贔屓している訳ではなく、その面でまずは教会関係から治療していくことになるだろう。
そこから先は広めるべきだけどね。
放っておいたら閉じて金を集めるクソ機関になりかねないが、お父さんを責任者にしたから信じるしかない。
「ここが我が家です。
…よろしくお願いします、神子様。」
今は治療で有効に働きそうだからそれでいいけど、ちゃんとラルフって呼んでね。
「はっ。
ミリ、お父さん帰ったよ。
お前を治すために神子様が来てくれたんだ。
入るね。」
この家は恐らく清潔な方だ。
教会で御者を務められる男の家だからだ。
奥の部屋に入って気になることは乾燥していることと、締め切っているために空気が澱んでいることだな。
これは魔法で一瞬だ。
便利な世界だね。
さ、ミリ。
診せてもらうよ。
ミリは無表情でこちらをチラリと見た。
…そうだ。
この顔が嫌で小児科医になったんだ。
診察の魔法を発動すると、全身に薄っすら腫れの様な感触がある。
それを僕のお父さんに話すと、初めて聞く病状だという事だったので、診察を使って貰ったが、お父さんの診察ではそう感じないとの事だった。
症状自体は良くあるものらしく、これを乗り越えてなんともなくなる子供も大勢居るとの事だった。
しかし、そのまま死んでしまう子供も多く、試練と呼ばれる病気だとのことだ。
研究もされて来たが、原因は未だに不明。
僕には違いが分かるのが大事だ。
どこが原発か探らないと。
全身くまなく腫れている気がする。
身体を触っても腫れていないのに。
「どうして、みぞおちの辺りを重点的に見てるの?」
ん?
あー…みぞおちのあたりの腫れがやや強い気がするんだけど、胃では無いみたいなんだ。
でも全身にも症状がある。
前世の知識にはない症状だ。
「魔力…?」
え?
「いや、不思議な事なんだけど、僕らは胸にある石に魔力を貯めるんだ。
それで、人にはそういう器官がないのに、どうやって巡らせて居るんだろうって思った事があるんだ。」
確かに。
人によって許容量が違う。
だけど、対応した器官がない。
貯蔵してるはずなのに、人によって性質も違うはずなのに。
はぁ…
自分を開けるか?
気が進まないな。
「人の魔力がどこに貯まるのか、か。
死んだら消えるからな。
魔物や龍の様に、保管する器官はないと思う。
どちらかというとその辺に漂う魔力を扱う技術の様に捉えていた。
でも、そうだな。
この間の話で個人差があるのに矛盾がある。
身体を巡っているのものなのかもな。」
なるほど、それならまずこの原因不明らしい病気は魔力が悪さをしていると推察しよう。
良かった自分を開けなくて。
目視出来ないし。
「あ、これ魔毒なの?」
なにそれ。
「徐々に強くなっていくなら問題は無いんだけど、小さい頃に急に魔力が上がると体調が悪くなるんだ。
龍にも頻繁にあるし、獣にもあるんだけど身体が強いからね。
死ぬまではいかないんだ。」
魔力性の自家中毒か。
なら解決できるな。
僕は死魔法を発動するとミリを大人にした。
「え、私、気持ち悪くなくなった。」
うん。
子供の身体では耐えられないなら、大人にしただけだ。
でも失われたレア魔法らしいからなぁ…。
あんまり根本的な解決じゃ無いんだよな。
とりあえずミリにはこのまま魔法の扱いを覚えてもらえば大丈夫だけど。
「毒として扱われているが、魔力を消失する物がある。
本来は魔法使いを無効化するのに使う物だが、薄くすると使えるかもしれん。
屋敷にあるから持ってこよう。」
それは良さそうだね。
でも副作用とかわからないからね。
子供への教育で、魔法って本格的に習うのはいつ頃になるの?
「はっ、初めは7歳頃から習いはじめておりますが…。
この症状が現れるのは早い子供で2歳頃から出ます。
もしかしたら身体がある程度完成するのを待つ今の風潮は遅いのかもしれませんね。
少なくとも自分の魔力を少し操れた方が良いのかもしれませんね。」
んー。
そうかもしれないし、その風潮が出来た理由もあるはずだから、安易に年齢を下げれば良いってものでも無いと思うけどね。
「はっ!
検証が必要なことは理解しております。
我々も医師ですので。」
そうだよね。
一応ね。
ありがとう。
「持って来たぞ。
これだ。」
濃い青色の液体だ。
飲む用の色をしていないなぁ、毒だし。
さ、飲んでみましょうかね。
まずは量を測らないと。
「おやめください!
私たちが実験台になりますので!
死ぬかもしれない毒なのですよ。」
はいはい。
だから僕が飲むんですよ。
ピリルル、僕の魔力の様子をメモにとって貰って良い?
「うん。
任せて。
量と相関させておく。」
さすが。
水の玉を1センチの大きさで丸くし、それで薬を包んで飲み込んだ。
すぐに魔力は解除し、薬は身体に吸収されていく。
「僕の感覚だと少しも減ってないね。
今1分だ。
ラルフ、自分ではどう?」
おんなじだよ。
15分待って次を飲もう。
そうして実験を続けていく。
人の家で、更に病気の子供の前でやるのはどうかと思うけどね。
でも解決しないと、1、2時間で死魔法の効果が切れちゃうから可能性があるなら目処を立てたい。
そしてここを離れるわけにもいかない。
一度希望を持った子供が1時間程度で元に戻ると、耐えられない可能性がある。
心がね。
なるべくこの場で方針を決めたい。
7つ目を飲み込んだ辺りで明確に変化が現れた。
明確に魔力が減っていくのを感じる。
ダメかも。
徐々に減らしていく感じじゃなくて、作用し始めたら一気に減っている。
ピリルル、どう見える?
「…ラルフが自分で放出してる様に見える。
どんどん体外へ抜け出る感じだね。」
考え方によっては使えるかも。
ある程度体外に出すのは有効なはずだ。
あ、クラクラして来た。
と思った瞬間ピリルルが僕を風で包んだ。
「人間の身体からどの程度放出されたら維持できなくなるのかも調べないとね。
体内から出たらなのか、ある程度離れたらなのかね。
魔法を使うときにいつ自分のものじゃなくなるのかがはっきりしないからね。」
たしかに。
あ、ピリルル。
風は良く無いかも。
循環してる魔法じゃなくて停止してるやつにしてほしい。
「酸素の問題で難しいよ。
ある程度循環しないと酸欠が起きる。」
あ、そうだね。
ありがとうピリルル。
変に体外に出なくなった気がするなぁ。
あ、風が穏やかになった。
「このくらいの循環なら酸素は問題無さそう。
じゃあ範囲を広げていくね。」
自分の魔力で満たせる空間は意外と範囲が広いが、これは僕が維持できる範囲なのか、個人差かわからない。
検証すべき事が山程ある。
山程あるが、気になることもある。
大人がどんどん増えていってるし、みんな低い体勢で祈っている。
気になる。
気になりすぎる。
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