第111話 丁重な拉致

はぁ、神様。

確かに命の危険って意味では大したこと無いんだろうけど、これはフレクサトーン対象じゃない?


厳密には少し鳴ってたけど、ティナの機嫌を損ねる時の10分の1くらいの音量だったよ。


「これ、拐われてる?」


そうだよ。

拐われてるよ。

いやーやっちゃったね。


アトラクション感覚で、なるべく怪しい宿屋に泊まってみようなんて思ったのが間違いだった。

その区画でダントツ一番仕立てのいい服を着てたもんなぁ、僕らは。


それで、ピリルルに教わりながら魔力の扱いを練習し過ぎて寝落ちしてしまった。

いや、睡眠薬とか食事に入ってだんだろうな。

そうに違いない。

2人とも寝過ぎだよ。

普通に目が覚めたもん。


「拐われたのは全然良いんだけど、これがねーちゃん達にバレるのが怖い。

変に飛び出して、騒ぎになるのを避けないとね。

じゃないと2度と2人旅ができなくなっちゃうよ。」


ほんとそう。


姉ーズにバレたらまず確実に殺人事件に発展する。

もちろんこちら側が加害者だ。

それは避けなきゃいけない。


だからといってこの人攫いを放っておくことも出来ない。

僕らだから良いものの、本当に子供が拐われることもあるんだから。


はぁ、犯人の素性も知りたいし、出来れば本拠地を一網打尽にしたいね。


ん?

どうしたのピリルル。

何か考えてるの?


「いや、この運ばれてる馬車…だと思うんだけど、質がいいなぁって。

そして寝ている僕らにふわふわの毛布を掛けてくれてる。

これ、子供を拐うにしては丁重に扱いすぎじゃない?」


確かに。

ちょっと咳払いしてみよう。


んっ!

んんっ!


…起きましたよー。


前の方で少しカタカタ音がして小さな窓が開いた。


「あ、おはようございます!

神子様!


粗末な宿にお泊まりでしたのでこちらの判断で移動させて頂きました!

ご安心ください。

警備は万全でございます。

喉が渇いておりませんか?

お腹は空いてないですか?


いや!

お運びする役目を頂いたんですよ!


光栄ですねぇ。


いや、うちの娘がね、神子様に祈るようになってから病気が少し良くなったんですよ!

感謝しているのです!」


いや、それは僕とは関係ないと思う…。


しかし、子供が病気だって?

この馬車はどこに向かっているんだ?


「あ、我々ラルフィード様を信奉する教会の施設がありますのでそこへお運びしております。」


そこにあんたの娘はいるのか?


「いえ…。

娘は我が家におります。

ラルフ様に祈ることが増えてから少し元気になった様な気がするんですよ。」


おい、行き先を変えろ。

あんたの娘を診たい。


「ラルフ、どうしたのさ。」


子供が病気なんだろ?

放っておくことは出来ない。

僕は、それだけは出来ない。


「いや、そうか。

それが君なら付き合うよ。

龍の知識もあるからね。

2人なら少しでも可能性があがるでしょ。」


先に、あんたの家へ連れて行ってくれ。


「いや、しかし…。

私だけそうする訳にもいきません…。」


なんだ?

他にもいるのか。

なら全部周る。

全員助けるなんて無責任な事は言えないが、手を尽くす。


ただし子供だけだ。

大人も診てあげたい気持ちはあるが、1人ではどうにもならない。


施設に行ってからの方が効率よく情報を頒布出来るならそれでもいい。


僕らの休暇はあと数日しかないからな。

全員診る気持ちでいるから、お前も頑張れ。


「…はい。

まず施設へ行かせて頂きます。

動かせない重い病児を優先しましょう。

そう言う情報も教会には来ますので。」


おー。

任せろ。


ごめんな、ピリルル。

後で話すよ。

僕の魂の部分を。


「うん。

友達だからね。」


うん。

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