第110話 明日からどうでしょう。

悲しみの事実が分かった剣術訓練から帰ると、アンヌが来ていた。

シャルルさんが呼びつけていたらしく、ただ孫娘と僕が一緒にいるところを見たいだけだった。

本人が言うには、それだけで何年か寿命が延びるらしい。


「こんにちは、はじめまして。

アンヌと言います。」


「あ、ピッ、リルルです。」


おいおい思春期ドラゴンよ、この娘が僕の婚約者だよ。

ほら、お姉さんの時に話には出てたでしょ?


「あ、聞いてたね。

僕、初めてなんだよね、同世代の異性。

なんかドキドキする。」


はっはっは。

ピリルルくん。

それはね、誰もが必ず通る道なのだよ。


そしてね、その娘はね、お爺さんに可愛いを叩き込まれるっていう、邪悪な秘術を掛けられているからね。


アンヌを基準にしちゃダメだよ。

アンヌは意識してないけど、計算され尽くした上目遣いとかしてくるから。

人間と龍の本能が同じかどうかは知らないけどね。


本人はいい子なんだよ。

アンヌの名誉のために言っておくけど。


しっかし、リリーディアさぁ。

ピリルル箱入りすぎじゃない?

言ってしまえば王子だから仕方ないとは思うけど、このまま変な女に騙されたらどうするのさ。


「殺すから大丈夫よ。」


うわ、即答。

どうやって判断するのさ。

ピリルル絡むとリリーディアだってガバガバ判定になるでしょ。


「近づくメスは全部殺すから大丈夫よ。」


いや、え、あ、どうやって結婚するのさ。

ピリルルだって好みとかあるでしょ。


「私を返り討ちにするメスなら仕方ないから託すわ。」


力か…。


ピリルルをチラッと見ると無のまま唇をんむってやってる。


ピリルルもう何日か泊まっていきなよ。

少し一緒に街へ出て買い物とかしよう。

旅をするならそういうのも慣れておかなきゃダメだしね。

僕だけが宿の手配したりとかし続けるのも良くないでしょ。


「そうだね。

僕はまだ大丈夫だから、旅の練習も兼ねて滞在させて貰おうかな。」


それがいいよ。

買い食いとかしてさ。


「ダメよ。」


なんでさ。


「私は今日帰らなきゃいけないもの。

ピリルルと離れたら死んでしまうわ。


今まで40分が最高記録だもの。」


40分?

何が?


「目を離した分数よ。

40分でも冷や汗が出て手足が震えて口内炎が出来たのに、ピリルルの仕事の予定ある3日後まで居ないなんて耐えられないわ。


身体のは穴という穴から血が吹き出し、歯が全て抜けて、鱗が腐りおちてしまうでしょうね。

ストレスで。」


ぇえ。

嘘じゃん。

寝てる時とかどうしてるのさ。


「いや、ねーちゃんは30分ごとに見にくるよ。

割と最近気が付いたんだけどね…。


え?普通来ないの?」


来ないです。

…来てないよね?

ティナさん?


「見張らせてるから大丈夫よ」


あ、流石死霊のアイドル。

そこら辺に居るのを捕まえてきて浄化してるのは知ってたけど、ある意味有償だったのね。

身体で払う的な。


「2人とも、あんまり過保護なのも良くないわよ。

ラルフとピリルルがもう少し大人になって自立心が芽生えた時に嫌われちゃうわよ。


一度信じて送り出してみたら?」


流石聖女。

この目がバキバキな2人に意見できるなんて!

ピリルルも尊敬の眼差しを向けているよ。


そうして5人で話しながら、僕とピリルルの2人プチ旅行が決まった。


と言っても国内の宿泊施設に泊まり、3、4泊して帰ってくるだけだ。


ティナはリリーディアにくっついて龍の国に行ってくるらしい。

ここに居ると逆に気が気でないとの事だった。


ティナとリリーディアの訓練も兼ねているので、はっきり帰る日程を決めなかった。

地味にお父さんからの許可を取るのも大変だったが、おじさんのゴネる姿に気後れはしない。

でも、心配してくれてありがとね。


と、いうわけで本日から宿泊して、翌朝から2人だけの散策だ。


というところで僕らは拉致された。

気がつくと真っ暗なところにおり、ガタガタ音がするので乗り物で運ばれているようだ。


僕とピリルルは当然ヤバいと思った。


拉致されたことではなく、拉致されたことが姉ーズにバレることがだ。

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