第109話 才能

「こっちも終わってたのね。

ならもっと早く来たら良かったよ。」


ピリルルとシャルルさんが隣の修練場からこちらに移動してきたが、勝敗は明らかだ。


シャルルさんの鎧が完全に壊れているし、剣もひん曲がって鞘に入れずに手に持ったままだ。


「お、ジジイ負けたか。

まぁ、相手は龍だから仕方ないな。」


そうだよ。

訓練目的の真っ向勝負なら人間が勝てる相手じゃないんだから。


「いや、僕が負けたよ。

人化した状態だとね。

力では圧倒的に勝ってたんだけど、いやー投げられた投げられた。

攻撃が当たらないのに流されて投げられるから手も足も出なかったよ。」


うっそー!

やっぱシャルルさん凄いな。

力の強さ10倍くらい違うだろうに。


「それで、約束通り龍として戦ってもらったんですがね。

尻尾の一撃をガードしただけでこのザマなので勝負は出来ませんでしたね。

訓練用の装備だと、龍と訓練は出来ませんでしたね。」


ドコンって音は防いだ音だったのね。


「ラルフは?

勝った?」


いや、全然負けたね。

攻めきれなかった。


「うっそ!

あ、魔力無し戦?」


いやいや、使い方は下手くそだったけど全力だったよ。

でもほら、見てよ、剣から身体まで魔力を流せるようになったんだから。


「え、表面だけじゃない?それ。

ラルフ今までそんな風に戦ってたの?

よくねーちゃんとやって生きてられたね。


エアリスさんの攻撃とかどうしてたのさ。」


いや、死んでるけどね。

これでもまだ間違ってる?

なにが?

変なところが全然分からないんだよ。


「意図的にやってる訳じゃないのね。

ラルフは身体の内側に魔力を全然流さないから、普段からすっごい不自然なんだよ。

普通の人は生活していくうちに出来るものだから、そこまで全然内側にないのは変なんだ。」


えぇ!

コレも魔法が無いところから来た弊害なんだろうなぁ。


「気づいてなかったのですか?

まぁ戦っている最中はゼロでは無いので、少なすぎる魔力を上手く運用する技術なのかと思ってましたよ。」


そもそも量とか全然分からないんだよ。

昔気絶したフリをしてる時に、カルさんとお父さんに魔力が少なすぎるって言われたことはあるけどさ。

でも今は魔法も使えるし普通くらいだと思うんだけど。


「ちょっとラルフ、魔力の放出だけやってみてくれない?

その時のコンディションとかメンタルでブレるけど、ある程度は分かるからさ。」


出すだけね。

やったことないかも。


上へ向けてみようかな。

…こうか?

出来てる?

出すだけってのも意外と難しいな。

これまで目的があっての魔力だったから。


「おぉ、婿殿。

凄いな。」


あ、そう?

魔法使いになれそうなくらいはある?


「いや、ラルフ、お前。」


あ、ちょっと多め?

なら嬉しいな。


「少なめの龍よりは多いね。

操作は赤ちゃんみたいに下手くそだけど。」


え?

そうなの?


…じゃあ僕はなんでそんなに魔法が強く撃てないんだ?


「いや、可哀想なくらい下手だよ。

なんていうか…。

みんなはコップの水をコップの水そのまま使えるけど、ラルフは川からコップの水を掬ってきてその分しか使えてない感じ。

遅いし効率も悪いし、出来てもポテンシャル程では、みたいな。」


お父さんとシーさんには言われたことないよ!

気を遣っていたのか…?


「うーん、センスがないな。」


「婿殿には剣があるでしょうからな…。」


あ、そんなに?

妖怪に気を遣われるくらい悪いの?


「いや、なんかわざとやってるのかってくらい変な運用をしてる感じかな。

多分君のお父さんは気を遣ってらとかじゃなくて、僕がみた感じお父さんは魔法の天才みたいだったから、なんで出来ないからわからないで、もっと基礎的なところからやってたら出来るようになるんじゃないかと思って居るんじゃないかな。


ほら、量的にみたらすっごい天才だし。

今は操作とか運用が終わってるけど。」


やっぱり前世の影響かなぁ。

そうに違いない!

じゃないと、ここまで結構してきた魔法の練習への意欲がぽっきり折れてしまう!


褒めて!

少しだけでいいから、褒めて!


「…色は綺麗だと思うよ。」


いや、見た目か!

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