第108話 妖怪と龍と兵士と僕


「龍が来ていると聞いたのですが、立ち合わせて頂けますか?」


うわ、出たな妖怪。


「ごめんねラルフ。

おじいちゃんが…。

言っても聞かないのよ。」


アンヌが気にする事ないよ。

そんなの分かってるし、変に止めてもどうにかして実現しようとするに決まってんだから。

その方が大勢を巻き込んであとで面倒な事になるに決まっているんだから。


「あら丁度いいわね。

ピリルル、やって差し上げなさい。

あなた、そういう経験殆どないでしょう。

ほら、はやく準備して。」


すっごい嫌がっているよ、お姉さん。

でも僕もピリルルがどのくらい戦えるか知らないなぁ。


「僕も戦えるって。

龍だよ。

でも、なんか遊びに来てフワッとお爺さんと戦ったのが初陣ってなんだかなぁ、って思っただけで。」


確かに。

ピリルルも後に龍王になった時に思い出すんだ。

初陣がお爺さんだったなぁって。


僕は初陣がお爺さんじゃないけどね。

ちょっと挟まって、次がそのお爺さんだから。

初めは同年代だから。


次にそのお爺さんに負けたけどね。


「え?ラルフに勝った相手が人間にいるの?

化け物じゃん。

ラルフはねーちゃんにも、エアリスさんにも勝ってるんでしょ?」


いや、まぁそうなんだけど、両方相性が良かっただけと言うか、勝利条件を早めに認識していたというか。


技術戦になったりしたらそんなに強くないよ、僕は。


「そうなのかなぁ。

ラルフは人間としてやったんでしょ?

なら僕も人化してやろうかな。

それなら人型の試運転にも丁度いいし。」


いや、僕は形態変化とかないから。

人間だから。


「人化出来る龍と戦えるのは貴重ですね。

なら、それでお願いしましょうか。

私が勝ったら龍の姿の貴方とも戦ってみたいですね。


本当はラルフとももう一度やりたいんですがね。

シャシャシャ。」


実は僕も鍛錬を続けている成果をぶつけてみたいと思っている。


「なら俺とやってみるか?」


現役のブランドさんとやるのはすごく勉強になりそうだ。


そうして修練場へと移動して、各々対戦を始めた。


僕とブランドさんの対戦は僕が攻め、それを上手く受けられ、そのまま攻めきれず終わった形となった。


途中どこかからドカンと言う音が聞こえた。

恐らくその頃向こうは決着がついたのだろう。


「まだ技では攻め切られる気はしないな。

しかし、もっと膂力が出るんじゃないか?


なんか、イメージに振る強さが引っ張られているような違和感があった。

別に手加減しているとかではないのだろう?」


手加減なんてしてないよ。

でもそうか。

思いっきり振る練習はしてなかった。

形を綺麗にとか、なるべく速くとか、それだけじゃなくって力づくの振り方も練習しておこうかな。


そこのカカシにやってみようかな。

そう思い横薙ぎに力一杯振ると、木剣が少しカカシにめり込んだ。

木剣に魔力を込めてなかったから、単純に力だけだ。

これは想像より大分強いな…。

少なくとも中学1年生相当の力ではないと思う。


「おぉ!

凄いなラルフは。

その力を上手く剣に伝えたり、ちゃんと力を込めるとかそういう方向の訓練もするといいぞ。」


そうだね。

そうか。

こういう力を活かす練習もしなきゃな。


「魔力を一杯に込める攻撃もやっておけよ。

やっておかないと必要な時に意外と引っ張り出せないもんだからな。」


それもやってみよう。

しかし、今でも剣に魔力を通す感覚がよく分からないなぁ。


精一杯魔力を木剣に込めると、ビリビリした感覚がある。

溜めるまでは出来るんだけど、これをどう活かせば攻撃に転換するのかよく分からないのだ。


こうしていると、剣自体が硬くなるのはわかるし、刃もつけられるので鋭くなるのも分かる。


でもブランドさんやシャルルさんみたくビャンビャン振ったり鉄をも斬ってしまうイメージがわかない。


それをそのままブランドさんに伝えると少し驚いたようだ。


「そう言えば、前回指導した時は剣術としての動きを優先したな。

いや、順序としてその方がいいとされているんだ。

いいんだが、基本の一つだし言わなくてもそうしてる奴が多いからな。


魔力を剣だけに通しているからそんな風になるんだろう。

剣は身体の一つだ。


逆に剣だけに絞って込める方が難しいと思うぞ。」


あ、なるほど。

偏見があったんだな。

もしかしたら普通に生まれて普通に生活してたら気にもならなかったのかもしれない。


たしかに全体的に流れるように通すと動きやすい。


なんで試さなかったのか。

今まで魔法は魔法、剣は剣で完全に分けて考えていたけど、分ける方が不自然だ。


その状態でカカシを斬ると中ごろまで剣が入った。


「おぉ、コツを掴んだな。

その年齢でそこまで出来るやつはそうはいないだろう。

もっと魔力をスムーズに流したり、自分に合った運用をしたらもっと威力が上がるからな。


見てろ。」


ブランドさんが軽く剣を振るとカカシは真っ二つになった。

切断した部分は僕の斬り込んだところに合わせたのか、最初の方はガタガタで途中から綺麗に斬れているのが分かる。

技術の差が歴然だ。


「ま、おっさんになったらお前はもっと鋭くやれるさ。

俺がお前くらいの頃なんて魔力を通しながら剣を振るだけで精一杯だったんだから。」


お世辞かも知れないけど嬉しいな。

やっぱり1人で振り続けるのは趣味に合うけど、指導してもらった方が成長が早かったり、やる気を引き出して貰えるから、大切にしていかないとな。


友達1人しか居ないから、競争とか出来ないし。

1人も龍だし。

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