第106話 空飛ぶ広告塔
なんで?
なんで姿が消えなかったんだ?
「これってどういう理屈で消えてるの?
前にも見たけど結局仕組みは知らないんだよね。」
簡単な理屈だよ。
光を透過する壁なんだけど、中の反射で真っ直ぐ通らないで捻じ曲がってるんだ。
だから直ぐ後ろにある物を映さないで、その後ろを映す壁になってるわけ。
「それって、その壁は何処に固定してるの?」
今回の場合はピリルルだね。
「魔力って魔力にくっつくの?
龍の身体の殆どは魔力なんだけど。」
えっあっ、いやどうだろう。
僕が認識している魔力の性質は
「擬態」と「伝導」だ。
擬態の方は、触媒と呼ばれる宝石のような物や、布、紙様々な形態がある物の性質に誘導されて真似るということだ。
火の触媒を真似たら火に。
無魔法はそこら辺にある光を触媒にしている。
現象を真似られる性質があるわけだ。
伝導は空気中にある魔力を伝わり、離れたところに伝わる性質だ。
術者によって意識している部位が違うのか、線のようなものが繋がっているところはまちまちだが、魔法が消失するまで術者と魔法が完全に離れることはない。
術者由来の魔力しか変化を誘導出来ないせいだ。
誘導された性質をもつ、不可視で軽い気体。
それが僕の魔力の認識だ。
前世に思っていたように、思ったことが出来る夢のような技術ではなく、理屈があって扱える物質。
さて、龍だ。
ピリルルと話をすり合わせると、龍というのは明確で強固に誘導された魔力の塊だ。
思えばそうなのだ。
こんな巨体を浮かせる羽なんて本体よりデカくなるし、鳥のように空洞のスカスカの骨じゃないと飛べない。
強固な鱗と、強靭な肉体とは矛盾している。
その強固に誘導されたものに、僕が誘導した魔力をくっつけても負けるのではないか。
プール一杯の赤い水にキャップ一杯の青い水を入れても赤いままだ。
大きい方に飲み込まれてしまう。
詳しく研究したらもっと色々な性質があるのだろうけど、今認識している性質だけでもダメそうなことがわかる。
そういえばリリーディアと対した時にも直接はかけてなかったから気が付かなかった。
龍は変化させる魔力にはすこぶる強い。
無魔法との相性が最悪だ。
「どうしようか。
僕に乗っての旅が出来なくはないけど、しづらいんじゃない?」
いや、大丈夫でしょ。
「ん?なんで?
騒ぎになりすぎるって言ったのラルフでしょ?」
もう遅いもん。
騒ぎになっちゃったから、今更隠せないし。
屋敷の門の方にバタバタとした雰囲気を感じる。
さ、誰に怒られるのかな?
お父さんか、国の偉い人か。
「すいませーん!
ティナ様か、シー様とお取継ぎ願えませんでしょうか!」
あれ?
思ってたのと違った。
後で分かったことだが、僕は怒られなさそうだ。
なぜなら、国はお父さんから僕が龍と友達になったことを先に聞いていたし、お父さんは普通にそうなるだろうことを考えていたからだ。
「友と旅立つだけだろう?
そんな、ラルフが今更少し目立ったところで大きな変化はないだろう。
最初からそうなると思っていたから王に連絡しておいたのだ。
ラルフはよくても兵は良くないだろうからな。
知らせておかねば。
私の屋敷に龍が訪ねて来るかもしれないとな。
しかし、いやぁシャルルに龍の国での話をしたら大変悔しがっていた。
国に先に報告しておいたから疑いも出来ず、ただただ悔しそうだった!
爽快な気分だったな!
ははは!」
そう、お父さんはシャルルさんに自慢したいが為に国に先に報告していたのだ。
国に報告するついでに自慢して来たって言ってるけど絶対目的が逆だ。
ちょっと行ってくるとティナが対応しに行った。
お客さんとの会話を遠くから聞いていると、なぜ大急ぎで訪ねて来たのかわかった。
「あら、それじゃあ増産が必要ね。」
「そうなんです!
第二弾のいい宣伝になりましたよ!
おかげで初弾の売上も、さっきの今でもう上がり始めているのです。」
あぁ。
もう分かった。
やってしまった。
バトル要素のないトレカなんてそのうち廃れると思ったのに。
「第二弾の…タイトルなんだっけ…。」
やだなぁピリルル。
君も主役だぞ!
神の子と叡智の幼龍ピリルルだ。
バッチリ宣伝してしまったな!
なんせ本人たちが空を飛んでアピールしたようなもんだ!
あはは!
僕は友達と旅の準備の為に色々してただけだ。
それなのに、次の日の新聞の見出しは
「神の子、龍を駆る」
だった。
聖女を婚約者に持ち、魔術の大家と剣聖を祖父に持つ、龍に乗る神の子だ。
ぜーんぜん望んでないし、殆ど外に出ないから実態が明らかにならないまま何かが盛られていく。
「龍は自身を倒した者しか認めないって伝承が広く知られいるよ。」
なるほど!
ドランゴンスレイヤーもついでに追加だ。
たーんと盛られていく!
抱えきれない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます