第105話 ラルフ空へ


確かに練習が必要だと思う。

ピリルルって速い方の龍なの?


「いや、そう言うわけじゃないんだけど、やっぱり人を乗せた事なんて一度もないから、練習した方がいいと思うんだよね。」


そうなぁ。

自分1人だとどう飛んでもいいけど、いきなりターンとかしたら上の人落ちちゃうもんね。


遺跡は空中遺跡なんかもあるらしく、そこに僕が行くためにはピリルルに運んでもらう必要がある。


しかし龍としてはまだ小さいピリルルには乗れる大きさではないので、僕が死魔法で成長させた上で乗ることになる。


それをぶっつけ本番で行う無鉄砲さは僕とピリルルにはなかった。


もう空に飛んでいるあの2人のようには。


リリーディアもまだ子供の龍と言っていい年齢なので、まだ人を乗せられる大きさではなかった。

しかし、すでに僕らと同じことを考えて実行していた。

朝起きたら軽く飛んでた。


当然騒ぎになりかねないので、僕が無魔法で見辛くしている訳だ。

騒ぎになった場合なぜか僕のせいになるのはもう、明らかだし。


しかし無魔法便利だな。

この世界の人が光の仕組みを知らないまま生み出して、今は演劇用の炎とかに使われているらしい。


目で見られない、または見えるものを弄れるだけで大分便利なんだけど、目の仕組みに完全に噛み合ってるだけだし、光と目の仕組みを知らないと出来ないことだからなぁ。


無魔法なんて不名誉だね。


僕がピリルルに乗る位置とか、足を置ける道具の話をしていると、姉ーズが降りてきた。


「きゃー

楽しかった。

ありがとね。

リリーちゃん。


なに?

まだ飛ばないの?」


僕らは旅の準備をしているからね。

検証が多いんだよ。


あとは、あれだね。

人間形態の大人の姿を見ておかないと。


「やっぱりダメ!

かわいいピリルルちゃんの大人の姿なんて…!

あどけなさもピリルルちゃんの長所なのに!


見てこの未成熟な鱗!

柔らかいのよ。

落ちてる鱗も瓶に集めて取ってあるんだから。


生え変わった牙とか。

ない?

ティナはないの?」


…ないよね?


「あるわよ。

ラルフったら何故か生え変わった歯を屋根に投げちゃうからわざわざ屋根に登らなきゃいけないないのよ。」


あぁ…知りたくなかった。

ピリルルも口をキュッとしたままだ。


気は進まないが、このままじゃ話が進まない。


リリーディア、よく聞いてくれ。

もしピリルルが大きくなったら、乗れるぞ?

人の姿でピリルルに。


「ほう。」


よし。


じゃあピリルルに死魔法をかけましょうねー。


「なんか変な感覚だね。

あ、メガネは取っておいた方がいいよね。

別に度とかは入ってないんだけど、ねーちゃんが掛けろって言うんだ。」


「目を直視したら死んじゃうもの。

かわいくて。」


外しておきなさい。

サイズが変わるからね。


シュンシュン音がしてピリルルが光に包まれる。

その光が明ける頃25歳程度に見えるピリルルが現れた。


「おぉ。

目線が高いね。

どう?

自分じゃわからないよね。」


やっぱ龍って神様に近いから美形なのね。

それでも髭なしサンドラさんの方が美しい気がするけど…。

いや、でも十分カッコいいよ、ほら、姉が膝に来て立ってられない程に。

プルプル越えてガクガクしてるもの。

…大丈夫なの?


「大丈夫よ、このくらい。

私もシャルルおじいちゃんと戦ってるときのラルフを見てる時こんな感じだったから。」


この2人が合わさると今まで知覚してなかった知りたくなかったことがどんどん出てくる。


早く終わらそう。


「うん。

じゃあ龍になるよ。」


確かめるようにゆっくり龍に変化していく。

様子は光ってて見えないけどね。


うーん。

やっぱり龍は分解されても平気な生き物なんだなぁ。

リリーディアのプラズマとか、変化もそうだけど、固体じゃない形態が挟まってるように見える。


「どう?

乗れそう?」


おっと完了ね。

十分乗れるサイズじゃないかな。


足置き作るのにちょっと測るよ。


あ、リリーディア、その何処から出た血か知らないけど、拭いておいてね。

すっごい貴重らしいから。

龍の血。

こんな屋敷の庭に残って変なこと起きたら嫌だから。


聞いてる?


「まって!

目に!

焼き付けてるの!


邪魔しないで!」


あ、はい。


じゃあちょっと乗らせてもらいますね。

どう?

痛いとかない?


「飛んでみるから魔法よろしくね。

とりあえず軽くその辺飛んでみるよ。」


ちょっと楽しみだな。


おぉ!

思ったよりふわっと浮くね。


「龍って羽で飛ぶ訳じゃないんだよ。

火を吐くためのガスを貯める器官があって、そのガスで浮くんだ。

羽は方向と推進に使うんだよ。」


なるほど。

鳥と仕組みが違うのね。

じゃあそのガスすっごい軽いのか。


「そもそも龍って魔力の塊みたいな物だからね。

安定した存在じゃないんだよ。」


それはなんか実感はあるんだけど、概念としてよく分からないなぁ。


「簡単に言うと地面にいる時と空にいる時で別の形態というか…。

飛ぶための身体に変化すると言うか、そんな感じ。

自分たちでもそういう生態としか言いようがないなぁ。

ラルフたちもなんで夜に完全に意識失うのって言われても困るでしょ。」


そうだねぇ。


それにしても空は気持ちいいね。

ピリルル達はこんな気持ちで飛んでいるのか。

羨ましいよ。


「でも僕らは目立つからこんなに人里気軽に飛べないよ。」


そうだよね。

魔法で姿を消してるから出来ることだよね。

あ、アンヌだ。

手を振ってみよう。


…え?

手を振り返してきた…。


ん?

なに?

風で聞こえないな。


「すっごい見えてるって…。」


よく見たらすっごい色んな人が見てる…。


「帰ろう。

あ。

早く帰ろう。」


あってなに?


「いや、あの子、ラルフの名前連呼してるから、大丈夫かなって。」


え!

アンヌ?

落ち着いて!

言わなきゃ誰か分からないのに!


また変な噂が流れる!

ただ友達と遊んでただけなのに!

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