第104話 花のプレゼント


大人しく…屋敷に向かう…?


いや、ダメだ。

フレクサトーンの知らせが強まった。

帰れない。


どこかへ旅立つ?


はい全然ダメ。

もう楽器の音じゃない。

警報だ。


なんだ、なんだ、焦ってきた。

ピリルルは何か浮かばない?

なにか、リリーディアとティナを平和にさせる何かを。


「えー…。

ないよ。

そもそもねーちゃんは勝手について来たんだから、出来ることなんてないよ。」


死にたいのか!

汲め!思いを!


意味もなく不機嫌になった姉と2人で帰れるのか?

無事に帰れるのか?


「ごめん、ラルフ。

僕が間違ってた。

本気で考えるよ。


…あ、手紙とかお土産を妙に楽しみにしてたよね。」


手紙…お土産か!


なんの気なしに弟がお土産買って来てくれないかな?

弟はお土産買ってくれるはず。

お土産を買わない弟などいない。


きっと思考が進化しているんだ。

なにだ、何を選べばいい?


食べ物か?

いや、ティナはそれでいいが、リリーディアは陰のブラコンだ。

その場で食べることはない。

腐らせるか、そのギリギリまで愛でるだろう。


その場の2人の行動に差が出来るものは絶対ダメだ。

どちらかが不満を持った時点で終わりだ。

しかし、残るものもダメだ。

姉のなにかを煽るアイテムを手元に残すなんて危険すぎる。

これからのわがままがエスカレートしたらいつか耐えられなくなってしまう。


ピリルル!

消え物で、絶対同じ行動を取るものだ!

叡智の見せ所だ!


「やめてって、それ。

確かに食べ物はすぐ食べてもらえなさそうだね。


いや、個別に買っていくから悪いんだ。

切り分けられるものなら或いは…!」


それだ!

やるじゃないか!


早速買いに行こう。


……。


よし!

これで帰れるね!


…ダメだ。

弱くはなったけど、まだ鳴っている。

クソ!初めての外出でテンションが上がっているんだ。

期待が膨らんでいる…!


もう、ピリルルだけ諦めて残るお土産を買って行きなよ。

ご当地のなんかを。

僕は姉の元にアイテムを残すなんてことは恐ろしくて出来ないけどさ。


「いや、ダメだよ。

手元に残る物は、今後それを越え続けないといけない。

そして、ある時急に理不尽な期待をピンポイントで当てないとそれ以外全てハズレのタイミングがくる。

その時に当てられる気がしない。

今後の期待を煽るような物はダメだ。


定番化出来て、何処にでもある物でなければな。」


くっ!

考えてやがるぜ叡智よ。

僕と同じ結論だ。


しかし僕には、この世界のことがよくわからないままなのだ。

木剣と白い花くらいしか縁がないの。


花…!

花だ!ピリルル!

やった!

花ならそのうち消えるし、出かけた先に大体ある!

ないなら捏造しやすい!

花だ!


ありがとう過去の紳士よ!

ごめんね、前世では花なんて食えないし、ただ飾ってそのうち枯れるだけじゃん。

なんて思って!

大事なことだった!

枯れることこそ必要だった!


「花ね…。

いや、ラルフ、君に叡智を名乗って欲しいくらいだよ。

ふふふ。」


勝った!


手紙も付けましょうね。

花屋にある汎用メッセージカードを。


いつもありがとうを!


警報はもうほとんど消えている!

こんな目覚ましにもならない音は鳴っていないのと変わらん!

ティナに関わると必ず鳴っているからな。


さ、花言葉に気をつけて買って帰ろう。

深読みされても大丈夫なやつを。


そうして2人は命が守られたまま帰宅出来た。

朗らかに話をし、トレカの文句を少しだけ言い、買ってきたパイを切り分け、トレカの販売を辞めてもらえないかをはなし、お茶を飲み、はっきり言われてないけどきっとトレカはそのまま発売され続けられることを確信した。


そうして夜も更けて、ラルフの部屋にピリルル、ティナの部屋にリリーディアが泊まった。


翌朝彼らがテーブルの上に乗っているのを見つけたものは、危険なものではない。

しかしいつの日か彼らの命を奪うかもしれない一冊の本だった。


押し花、ブリザーブドフラワーの作り方

〜大切な花を一生手元に〜

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