第103話 予感


酷い目にあった。

邪悪な物を見てしまった。

次に見かけたら浄化の魔法を試してみよう。


「ラルフもノリノリだったじゃない。」


そんな訳ないじゃない。

止めたね、僕は。

最初から止めてたね。


ピリルルはどうしてここに居るの?

人化の練習?


「いや、修めたから、遊びに来たんだ。

驚かせたくて内緒で来たけど、僕が驚かされたよ。

やっぱりドラゴンスレイヤーは違うね。

凄惨な現場だった…。」


違うよ!

普段は屋敷から出ずにそれはもう清貧に暮らしているんだ。


「でも会えたのってラルフの噂話を辿ったからだよ。

街の人があっちに行った、こっちに行ったって話してたもん。」


え?

嘘でしょ?

そんな目立つことしてないよ!


「…これ。

つい買ってしまったんだけど。

こんなの売られてるくらいだから、すっごい有名なんだと思ってた。

ドラゴンスレイヤーだし。

いや、これは本当に。」


僕は龍を倒したなんて言った人なんてアンヌと家族くらいだし…。


それで何それ。

絵?

え?


…僕だ。

どう言うこと…?


「それ裏面が凝ってて楽しいんだよ。

すっごい売れてるらしいよ。

全部集めようとする人が沢山いて、品薄気味なんだって。」


裏?


「カードNo.7 神の子の休息


一日中修行と祈りに明け暮れる彼にも、休息の時は必要だ。


家族や姉達との交流が戦士を癒す。


苦難の道を歩もうとも、人である事を忘れたものはいつか害を成すだろう。」


…は?


これマジでなに?


No.7…ってことは少なくとも何種類かあるし、この絵は明らかに屋敷の内部だ。

っていうか犯人分かってるけどね。

僕の前世の知識を話す人なんて、もう知られてるティナしかいないんだから。


あ、これ外袋?

紙で出来てるのね。


ティシー商会。

はい、確定。

姉2人による犯行だね。


神の子カード

第一弾、神の子と聖女ね。

はいはい。

絶対アンナにも迷惑かけてるな。


…第一弾!?


…全55種類…!

あたり券を送ると…サイン入り木剣やサイン入りカード、うわ、握手券が抽選であたる…!


あ!

高い!

3枚入りで日本円換算で1500円くらいする!

いや、紙が高いから仕方ないのか?


ピリルル、これどこで売ってたの?


「え?

ここに来る途中のティシー商店とか、酒屋の店先とか色々で扱ってたよ。」


広まっている…!

まずい!

まずいぞ!


とりあえずそのティシー商店を見に行っていいかな。

ごめんねピリルル。

そのあと好きなところ付き合うから。


「いや、僕はラルフに会うのが目的だったから全然いいんだけど…。

これラルフ知らなかったの?

ダメじゃない?」


リリーディアが陰のブラコンだとしたら、ティナは陽のブラコンなんだ!


なんで光龍が陰で死魔法使いが陽なのかはわからないけど、とにかくそうなんだ。


リリーディアは1人でピリルルを楽しむだろ?

我が姉は布教しようとするんだ…。

自分の師匠に僕の絵を送りつけたりしてね。


絶対リリーディアとティナを合わせちゃダメだ。

仲違いなら仕方ない。

相性とかあるし、みんながみんな全員仲良くなるのなんて無理だから。

問題は気が合ったときだ。


「なら今回ねーちゃんを撒いて来てよかったよ。

寝ないで外で休みながら、夜中に出発したんだから。」


悲しい旅行の始まりだ…。


ティシー商会へ早歩きで向かう途中、僕の頭の中にフレクサトーンの音色が響き渡った。


今回の神の能力「勘」だ。

厄介ごとが起きる前に頭の中で警告してくれる能力なんだけど、音を任せたら神様はフレクサトーンを選択したらしい。

…あんまり観てないんだよなぁ。

あのシリーズ。


「あ、あそこだよ。

ティシー商会。

ん?さっきはあんなに人だかり出来てなかったよ?」


これか、フレクサトーンの知らせは。

今回は気をつけても避けられないやつだ。


「新商品の発表です。

神の子カード

第二弾が発表されました!


ポスター貼っておきますね!」


あぁ…!

ピリルルは撒けてないみたいだ!

出会ってしまって、尚且つ気が合ったようだ…!


「嘘でしょ。

人間の言葉を間違って覚えてる?

僕…!」


いいや、合ってる。


第二弾のタイトルは


神の子と叡智の幼龍ピリルル。


そう、君もトレカになるんだよ。

ピリルル。


な、叡智の龍よ。


「僕の二つ名は叡智じゃないよ!

盛られてる…。

飢知龍だったのに…。」


知識を求める龍ってことね。

ランクアップしてるじゃない。


「他人事だと思って!

…いやごめん。

ラルフの方が他人事じゃなかったね。

これは、あれだね。

姉が来てるね。」


出会ってしまった。

頭のフレクサトーンは未だ鳴りやんでいない。

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