第102話 第一街人


「動くなって!

あの切れちゃうぞ!


あっ…

切れてなーい!

セーフ。」


あっはっは!

首から下は動けまい!


「こわい!

やめて!

先輩不器用なんだから、ラルフちゃんがやって!

いたい!

嫌っ!

くっ!」


…なんかいけないことしてる気になってくる。

おっさんがおっさんの髭剃ってるだけなのに。

子供はいちゃいけないんじゃないかな。

ここに居るだけで心が汚れていく気がする。


もういいかな。


僕は土魔法と水魔法を出してサンドラさんの顔に貼り付けて、一気にむしることにした。

ブラジリアンワックスのような、そんなイメージだね。

ごめん。

嘘だ。

美容品じゃない。

顔に細かいセメントを貼り付けただけだ。


サンドラさんにはなんの恨みもないが、あと15分ここにいたら召されそうな気持ちだったから…ごめんね。


「ラルフちゃん?

泥?

何これ…。

もがっ…。」


さぁ、カルさん引っ張って。

思いっきり。

一網打尽にしてしまおう。


「おう!

まかせろ!


がっ…かってぇ!

毛根の怨念を感じるぜ…!


でもな!伊達に鍛えちゃいねぇからよ。

ぬーーーー!」


メリメリという脱毛に鳴ってはいけない音がする。

もし毛根より顔の方が弱くて、剥がれてしまったらごめんね。

お詫びは何も出来ないけど…ごめんね!


頑張れカルさん!

なんのための筋肉だ。

このために鍛えてきたんだろ!


「このためじゃ…ねぇ、が。

硬すぎる!

本当に毛なのか?」


顔についたセメントに開いた穴からプスーと空気の抜ける音がする。

呼吸穴開けといてよかったよ。

…こんなに硬いなんてどうしようもないね。

諦めようか。


ね、カルさん。

今日は帰ろうよ。

寝て起きたら取れてるかもしれないし。

運良く。


「ラルフ、何してんの?

うわっ。

…拷問?」


…どなた?

メガネが似合うふわふわ髪の少年だ。

もしかして…。


「ピリルルだよ。

そうだったね。

この姿を見せるのは初めてだ。


久しぶり、ラルフ。

会いたかったよ。」


ピリルルか!

僕も会いたかったよ。


さ、お茶しに行こう!

ここから屋敷に戻る途中に美味しいお菓子屋さんがあるんだって!


「ぷすー!!」


あんまり見たらダメだよ。

あれは、あの、その、あれ、修行だから。


「ぷすー!!」


「…もしかしてふざけてたら取れなくなったの?」


ふざけてたらって訳じゃないけど、ふざけ半分でやったら取れなくなったの。


「引っ張ればいいの?

僕がやってみようか?」


あ、ピリルルならいけるかもね。

お願いします。

彼を、サンドラさんを呪いの石仮面から救ってあげて!


「お前…。

お前がやったんだぞ?

その少年力つえーのか?

なら頼むよ。

すっごい硬いから。」


「じゃあ引っ張るね。

…引っ張りますよー。」


メシャッと音がして一気に剥がれたそれには、夥しいほどの毛がついていた。

うわぁ、ダメなんだよなぁこういう点々がいっぱいなやつ。


あ、サンドラさんに聖魔法かけとこ。

…治ったね。

もう痛くないね。

これで少しも皮膚が剥がれたようには見えません。

大成功!


「大成功!じゃないわよ全く。

どう?なくなった?

身体も縛られてるし、わからないの。」


あ、ごめんね。

今解くよ。


「ラルフ、この人男の人?

女の人?」


いや、見たらわかるでしょ。

どう見ても…。


すっごい美人だね。

サンドラさん。


「そう?

うちの村では普通だったよ。

かっこいい方ではなかったと思うけど。」


どんな村だよ…。


「サンドラ、お前髭ないと本当に女みたいだな。」


まつ毛もズギャーンとあるし、色は多分毛がありすぎて遮光になってたのか白いし、唇はダメージのせいか赤いし、本当にそうみえるよ。


「そう?

あー!

やっと身体が自由になったわね。


ラルフちゃん、私ばっかり拘束されるの不公平だから先輩も転がしてくれる?

やってくれないと、私の中の獣がラルフちゃんに襲い掛かりそうなの。」


はい、喜んで。


「がっ!

お前!

裏切ったな!


おい!

お願い!

助けて!

食べられる!」


じゃあ、あとはサンドラさんお願いね。

この草の蔓の拘束は刃物では切れるから。


「はいはい。

そんじゃ先輩行きましょうか。

往来だと見られちゃうから。」


南無。

いい人だったな。

カルさん。


小脇に抱えられるカルさんを見ながら一応祈っておいた。

ごめんよカルさん。

裏切ったんじゃないんだ。

ほら、友達来てるし…。


「なんか、人間って、凄いね…。」


違うんだ!

あれはスタンダードではないんだ!

あれは…。


ごめんよ、本当に。

第一街人が生贄の儀式してて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る