第96話 どちらを選ぶとしても

「死にましたね。

いや、ダメですよ。

死ぬ前提で特攻しちゃ。」


死ぬ前提じゃなかったよ。


前日の内にかなり正確に写したピリルルの姿を意味のわからない見破られ方しただけで。


「心が慣れちゃってるんですよねぇ。

逆になんで正気なのか分からないです。

さ、次の能力は何にしますか。」


神様も慣れすぎて、寿司屋の大将が次の寿司ネタ聞くくらいのテンション感になってるよ。


キルカメラみせてもらっていい?

速すぎてなにを貰ったのか分からなかった。


「はいはい。

ん?

ほう、面白い現象ですね。」


雷か!

絶対無理だと思って能力として考えた事もなかった。

あるの?雷の能力。


「ありませんね。

雷って単一の現象じゃないですもん。」


微細な氷が風とかで擦れて起こった静電気の塊が電位差で移ったものだっけか。


人間が扱うには無理だね。

指向性がないからどこ飛んでくかわからない。

手の周りに帯電させることは出来るが、身体が焼き尽くされて死んでしまう。

こんな無茶苦茶な解決方法を取れるのは龍だからだ。


光龍じゃなくて、雷龍だったか。

でもやっぱり能力は遺伝するんだね。

発生は父親の風と母親の氷だもの。



仕組みが分かればそんなに対処は難しい訳じゃないな。



次の能力は

水魔法だ。




生き返った僕を見てリリーディアは目を剥いた。

そりゃそうだ。


クリーヒットしてたんだから。


「あら、旦那様。

どうやって逃れたのかしら。

手応えはあったのだけれど。


そういえばピリルルだけは驚いていないのね。

ピリルルには見せていたの?

本当に仲がよろしくなったのね。


それでこそ旦那様よ。」


ピリルル中心の思考やめてよ。

怖いよ。


…。


ピリルルが言ってたんだけどさ、昔ピリルルを首だけにして飾ってた事があるんだって?

いやぁ、それは姉としてどうなんだらうなぁ。


嫌だったと思うなぁ。

姉ってのは弟を自分勝手に愛でるだけで、庇護対象とは見ないんだね。

恐れ入ります。


「…何が言いたいのですか。」


自分勝手に可愛がって、ピリルルと僕が男勝負で仲を深めようって時にしゃしゃりでてきて、何で自信満々に弟への関心の評価を語る。


それが家族っていうなら、恐いですねって言ったんだよ。


バチッとリリーディアの周りで雷が弾ける。


怖えー!

けど、もう少し時間が要る。

初めてだからね、戦闘で水魔法を使うのは。


「旦那様。

いけませんよ、家族の関係に口出ししては。

私とピリルルがどれほど信頼しあっているか、知らないくせに!」


僕は手に円盤を出す。

これは、レコードだ。

土魔法で作ったレコード。


何が録音されているのかって?


「ジジ…。


過保護すぎるおねーちゃんは嫌いだ。


ジジジ…。」


もちろんこんな事ピリルルは言っていない。

切って貼って繋げた偽物だ。


でもちゃーんと愛する弟の声なんだ。


「ピリルルになにをした!

そんな事言う訳がないでしょう!


貴方を少しでも弟の友として認めたのは間違いだった!

楽に死ねると思わないでちょうだい!」


リリーディアの周りに雷が迸る。


「殺す!」


こっちも準備が出来たよ。


リリーディアが能力を発動した瞬間、リリーディアの身体が爆散した。


はっはっは!




リリーディアが行っていた攻撃。


まぁ簡単にいえばレールガンだ。


自信を砲弾にして、発射していたのだ。

プロセスとして段階がある。


まず氷と風で雷を発生させた上で自分に纏い、プラズマ化。

人間ならこの時点で耐えられない。

龍という理不尽な生き物だからできる所業だ。


発射する方向に向かって少しずつ氷の粒を大きくし電位差で加速。



放たれた瞬間魔法を消して再実体化。

これで龍が放たれるレールガンの完成だ。



これを崩すのは簡単だ。


霧を撒けばそれで電気は散る。

これだけでレールガンは撃てない。


安定させる機構もない、才能任せのレールガンなんてこんなもんだ。


これで必殺技は封じれる。

しかし別の問題もあった。


レールガンが撃てなくなったとて、単純にリリーディアの方が強いということだ。


普通に勝てない。


なのでプラズマ弾丸状態のリリーディアを狙うことにした。


不安定なのだ。

プラズマは。

周りの電磁波の影響をモロに受ける。


頭にアルミホイルを巻いておいて欲しい思考をしているリリーディアだが、ソレをされていたら勝てなかった可能性もある。


僕は水魔法で小さくパッケージしたネオジムと砕けたシグネチャー木剣をばら撒いていた。

それを怒らせて発動タイミングを測りやすくし、解放しただけだ。


あとは強い磁力と絶縁体やなんやかんやが、空気中でプラズマをめちゃくちゃにしてくれる。


死にはしてないみたいだけど、大ダメージだ。

身体が引きちぎられる直前で魔法を消したのだろう。

よく反応出来たな。


しかし必殺技は返されたらまずいってのは、ウルトラマンの時代から決まっているのだ。


いや本当にエアリスに続き相性が良かった。


龍は戦う相手が強者のため、技が尖っていく傾向にあるのか、普通に殴られたらお終いなのに凝ったことをしてくる。


その方がつけこめるってもんだ。

こっちは死んで、分析して、生き返るのだ。


さ、終幕だ。


僕はリリーディアへと近づくと、もう一枚レコードを出した。


「ラルフにお願いがあるんだ。」


これはピリルルが僕の身体を突き刺す前のフリから頂いた。


「死なないでね。」


これは昨夜のやりとり。


「ねーちゃんは魅力的だけど。」


これは切り貼りしたやつ。


「ふタりとも、ダイすきぃナんだ。」


こんなセリフはなかったから一文字ずつ切り貼りしたやつ。

違和感が凄いけどゴリ押せ。


「ピリルル…。」


リリーディア、さっきのおねーちゃんは嫌いだってやつ、あれは僕の魔法で作り出した偽物の声なんだ。


「本当の声に聞こえました…。

そうですか…。」


まぁこの声も偽物なんだけどね。

レコードを模して作ってみたは良いけど、結構不明瞭なんだ。

それでも本人のイントネーションとかはそのまま使っている。

ちょっとだけ説得力あるでしょ。


僕は無魔法で大きな剣を出してリリーディアへ突きつける。


リリーディア、僕たちが戦うだけで、傷つくだけで優しい優しいピリルルはもっと傷つくんだ。


この剣を君に突き刺させないでくれ。


もちろん嘘だ。

こんな剣はハリボテです。

リリーディアが片腕をぺって振っただけで僕は負ける。


「ピリルルが悲しむのも、貴方に貫かれるのも、どちらにしても私には負けです。」


リリーディアから赤い光が漏れ出た。

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