第95話 リリーディア

こう対峙すると、エアリスより大分小柄なのね。


龍の決闘場は龍の国の屋上の様な場所にあるらしく、お空が綺麗だ。

これが最後のお空になるかもしれないから、余計に綺麗に見えるよ。


「ラルフよ、大丈夫か?

本当に嫌ならお父さんが命を賭けて逃してやるからな。」


大丈夫だよ。

ありがとう。


「決闘中までついて行くことは叶わないようだから、部屋で待っているが…。

どういう結末にしろ、お父さんは味方だからな。」


さ、やるか。


「やりましょう。

昨夜もピリルルとお話ししていたようですね。


仲良くしてくれてありがとうございます。」


友達になったからね。



リリーディアは大型犬より少し大きいくらいで、何ならピリルルよりも小さな龍だ。

パールがかった薄紫の体色は美しい。


今回僕はメタれないと勝てない。

それは確実だ。

相手の性質を理解して、それに対応してようやく勝負になる可能性がある。


アドバンテージは死ねることと、この世界では魔法で片付けられてる現象の物理要因の知識がちょっとだけあることくらいか。


もし彼女の能力が光由来のものなら、今の能力はとても相性がいい。


ピリルルに消えてやってみせたように、光を屈折させて素通りさせれば攻撃を防げるって事だから。


神様の能力がストレートに役に立つ可能性があるの初めてなんじゃないかな。

悲しいことに。


嫌な予感がして来た。

今まで正解だった事なんてないよね、能力が。


僕はお父さんが持って来てくれていた木剣を抜いた。

異常な速度で届けられた、シグネチャーモデルのやつだ。


あぁ、ヨーイドンとかないのね。

リリーディアの魔力が高まっているのを感じる。


光だとすると、発動したら反応出来ない。

今のうちに無魔法を張っておこう。


光学迷彩ってやつだね。

避けられるかな?


避けると言うよりも勝手に曲がって行くはず…。


ジャッという音で横を抜けて行くリリーディア。

熱い!

なんかすっごい熱かった。

空気摩擦か?

そういえば二番目に貰った能力によく似ているんだな。

人の生身では耐えられなくても、龍ならいけるのか。

ズルいって。


マジで見えない。

でも、やっぱ能力は役に立たなさそうだ。


光じゃない。

熱い風が来たってことは質量がある。

光の性質ならそれは出来ないはずだ。

出来たとしてもこんなちゃっちい衝撃波じゃ済まない。


はぁ、今回は見えにくくなったから彼女の軌道から外れただけだ。


少し遠くに彼女の姿が現れた。


「あら、外しちゃいましたね。

ま、どんどん行きましょ。」


同じくジャッと言う音を残してリリーディアの姿が消えた。


これも外れてくれたようだ。


また遠くで姿が見える。


今僕に出来ることは力一杯剣を前に突き出しておくことくらいだな。

偶然刺さるかもしれない。


ジャッと音がして遠くに現れる。


その繰り返しを僕はなるべく息を潜めているだけだ。

いつかは当たってしまう。


3つわかったことがある。

まず攻撃にタメが必要なようだ。


音がして遠くに現れる。

それを繰り返しているのだ。

連続で使えるならもっと繰り返し使っているはずだ。


そして、攻撃は直線的にしか出来ない。


これもちょっと大きい材料だ。

軌道がわかればこちらの魔法を設置することが出来る。


そして最後にやはり光で何かしているわけでは無さそうだ。


直線的なのを理解したので、光学迷彩的なは壁をそこらに設置してみたが、それで曲がっている様子はない。


何をしているのかさっぱりわからないがこれだけわかった。


…でもなぁ。

攻撃が近づいて来てるんだよなぁ…。


僕は動けない。

息を潜めているだけで、歩いたりするとすぐバレるはずだ。

しゃがんで剣を前に突き出しているだけしか出来ない。

2回に1回は剣を突き立ててる方からくるので、刺さるかもしれない。


それだけだ。


実はもう一つ期待していることがあるが、出来れば使いたくない。

何でって?

キルカメラという名前の僕の死因カメラだからだよ。

スローで見たり、寄りで見れば何かわかるかもしれないが、それは僕が死んだと言うことだ。


…次の次か、その次には当たるな。

几帳面な龍だ。

往復が隙間なく繰り返されていて綺麗だわ。


…はぁ覚悟決めて当たるか?


いやどうせ使えない無魔法ならイタズラしちゃおうかな。


僕は次の攻撃を見送ると、光学迷彩を解除した。


そしてリリーディアの横に魔法を発動し、リリーディアへ走り出した。


リリーディアには自分に爪を立てて飛んでくるピリルルが見えている。

少しでも怯んでくれて剣を当てられれば何か出来るかもしれない。


「あら、ピリルルの友達のくせに何にもわかっていらっしゃらないのね。


最近ある鱗の薄い傷もないし、飛ぶときに2°くらい左に傾く癖もないし、右爪の左から二番目が4mmだけ短いのも再現出来ていない。

右目の上の鱗の一枚だけ色が違うのも、歯を剥き出しにするときの口角の上がり方も違う。


全然だーめ。」


リリーディアは僕の身体を貫通しながら、とんでもない早口でなんか言ってた。


全然だーめ以外よく分からなかったが、それでよかったと思う。

本当に良かったと思う。

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