第87話 龍の国

着いてしまったなぁ。


「おぉ!

ここが龍の国か!

空に浮いているのだな!

子供の頃に読んだ本に書いてあった通りだ!」


浮かれているなぁ、お父さん。

僕はそんな気には全然なれないのだけれど。


「な、見ろ、ラルフ。

あの扉の意匠なんて繊細なもんだぞ!


龍の手でどうやったらあんなに細かい模様が彫れるのだろうな!」


そうだね。

でも手を見ると指は六本で親指に対するところはないけど、人の手に近いよ。


「木も生えているな!

空なのにどうやって養分を維持しているのか不思議なもんだ。」


土魔法あるし、どうにかなるんじゃない?


「わはは!」


うん、笑うと楽しいね。


「なんだ、楽しくないのか。


周りを見たら楽しいよ。

でもね、現実を見たら楽しくないんだよ。


ねぇ、龍神さん。

ここって人が住んでるわけじゃないの?


「そうだぞ。

龍って言うのは溜まりに発生する現象だ。


よってここは祭事の時に使われる際に集まる所だな。」


そうなんだ。

…ん?


でも今回の話って龍のお姫様って…。


「龍の中でも特殊な龍は幾つかいる。


まずは偉い偉い龍神様。

これは神気の溜まりで生まれた俺だな。


一番古い龍だ。


次、龍王。

こやつらだけは世襲制だ。

龍王が龍を選び妃にして子を成す。


今回はこのパターン。


そしてお前が見て来たエアリスのパターンもある。

人が龍に成る。

もしくは龍が人になる。

それでも子供が出来るだろう?


その子も龍だ。

前者の場合だけだがな。」


なるほど。

僕らが人間だから勝手に生殖で増えると思っていたけど、そういう概念じゃないのね。


なんで龍王だけ世襲制なの?


「狂う訳にいかんからな。

寿命を迎える龍は狂う。

龍としては弱くなるのだが、それでも凡百よりは強い。

その龍を裁く役目だな。」


はー。

なるほどなぁ。


「大体今まで倒されてきた龍はこの狂った時に成されている。

今回の様に全盛期の龍を討伐した話など、俺でも数度と聞いたことはないぞ。」


んー。

でも今回は特殊だったからねぇ。


「それでもだ。

龍は龍討伐者に敬意を示す。

願いを叶えると言うことはそういうことだ。

龍の誇りにかけて、龍が全知を持って叶えさせるのだ。」


そうなんだ。

だからこんな大ごとになっちゃった訳ね。


「うむ。

王にしてくれと言われれば王にする。

強くしてくれと言われれば強くする。


素敵な嫁をと言われれば全霊を持って素敵な嫁を与えるさ。」


ところでさ、そのお嫁さんである龍のお姫様は納得しているの?


「もちろんだ。

やつも龍だからな。

直接話してもいるし、無理に受け入れさせた訳ではないな。

龍はやはり龍が最高と考える。

ならば龍が考える素敵な嫁も、まず龍の中から差し出すべきという、これもまぁ、誇りと言っていいな。」


…わかったよ。

それは分かった。


龍という種族として誇りを持って選んでくれた、本人も納得していて、素敵なお嫁さんってことは十分に、それはもう、十分に分かった。


なら聞くんだけど、あの奥から覗いている、この世の全てを呪い殺しそうな目をした龍は納得しているの?


「あれは龍王だな。

…納得しているんじゃないか?


あ、断るならヤツに直接言えよ。

俺は…ちょっと、あの、龍王と話すと死ぬ病だから。」


子供みたいな嘘をつくなよ。

龍神さんのはやとちりでこうなった部分もあるんだから。


…ひぃ。

呼吸をするたび口の横から炎が漏れてる…!


ん?

これ詰んでない?


結婚を受け入れるとその親御さんがキレ散らかしてる。

結婚を断ると龍のプライドも傷つくし、結局娘を選ばなかった相手に親御さんがキレ散らかすのが目に見えてる。


「おおむね、その推測は正しいな。

さすが龍討伐者。

龍の気持ちがよく分かっている!

あはは。」


龍討伐者は関係ないよ。

僕の親も過激派なだけだ。

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