第88話 お相手のご家族

まずは挨拶しないとな。

全てを滅ぼしてしまいそうな龍だけど、印象が良ければ解決するかも知れない。


はじめましてラルフです。

こっちは父のジェマです。


「よく来たな。

龍を惨たらしく殺害せし者よ。

ぐっ、いや。

婿殿よ。」


…あ、ダメそうだ。

ギリギリだ…ギリギリで威厳を保てなくなったところを嫁龍が尻尾を踏んで持ち直した。


「初めまして、ごめんなさいね。

この人娘が可愛くて仕方ないの。

この人が龍王、私が妃よ。

不便でしょうから、これ。

魔法をかけるわね。」


青い王妃龍からふわっと魔法が飛び、僕とお父さんに入り込む。

これは見たことがあるな。

ヤイシャが使ってた魔法だ。


「これで龍とのコミュニケーションは問題ないはずよ。

元々私たち龍王の一族は人の言葉を話せるんだけどね。

他はスピラヴェラと龍神様くらいしか話せないから。


お部屋もあるわ。

ピリルル!


さ、この子が案内しますからね。

少しお休みなさいな。

結婚式までまだ間がありますからね。」


そう言うと王妃龍は龍王の尻尾を握り奥へ去っていった。

明確なパワーバランスがあったな…。


「お客様、こちらです。

あの、パパも納得しているんです。

でもなんか受け入れられないんだって。

ごめんね。」


あ、キミも龍王のお子さんなのね。

いや、当然だと思うよ。

大事な娘さんなんだから。


ウチのお父さんだって、僕の姉のティナが明日嫁ぐってなったら…ね?


「ああ。

相手を殺すな。」


ほらお父さんなんてこんなもんだよ。

悪く思ってないよ。

むしろちゃんと愛しているんだと思ったくらいだよ。


役目だからと言ってポンポン他所へ娘を差し出すような親より信頼出来るよう。


「そう言ってもらえたら。

お姉ちゃんも安心すると思います。

心配してたんです。

お姉ちゃん。

パパがあんな感じだから、変な事にならないと良いなって。」


キミはお姫様の弟さんなんだね。


「…あ…

ピリルルです。」


じゃあ家族の中では僕と同じ立場だね。

もっと気楽に話してよ。

仲良くしてね、ピリルル。


「…うん。

こっちだよ。」


ピリルルもやっぱり龍なんだなぁ。

後ろから見てても背景が歪むほどの魔力だ。


ピリルルはお姉さんとは仲がいいの?


「うん。

上にもう1人兄がいて、みんな仲がいいよ。

…い程に。」


ん?なんて?


「あ、この部屋がお父様のお部屋です。

どうぞお休みください。」


あ、先にお父さんの部屋に着いたらしい。

人サイズの扉も付けてあるのね。

あ、今回のためにわざわざ付けてくれたの。

へぇー。

心遣いってやつだねぇ。


「ラルフはこっちのこの部屋だよ。

さ、はいってはいって。

あのね、僕、ラルフにお願いがあるんだ。」


ん?

なーんにもない、がらんとした部屋だね。

その辺で休んで良いのかな?


お願い?

なんだろう。

言ってみて欲しい、力になれるならなるよ。


振り返る僕の胸には小さな龍の尾が刺さっていた。


「ケケケ!

お願いはなぁ!

死んでくれって事だよ!


ケケケ!」


…なるほどなぁ。

君も僕と同じタイプか。

ティナがよくわからん男と明日結婚するってなったら、僕も相手をぶっ殺す覚悟があるもんなぁ…。


ごめんなぁ。

5秒で復活するんだよ。

残念だったなシスコンめ。

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