第82話 龍の死

リナリーンも手伝ってくれる。

許可も降りたので安心して愛属性をぶち込んでやろう。


僕は魔法を発動すると、リナリーンとペリンに向けて放つ。


愛属性は特殊な魔法だ。

心で増幅する関係上、強化率が人によって違う。

相手を想う気持ちがどれだけあるかで、どれだけ強くなるかが変わっちゃうんだ。

そりゃあ仲間同士で使うとモヤモヤしそうだ。



リナリーンはちょっと強くなった。

元々強いけど、普段の1.3倍は強いだろう。

なんだ、リナリーンもペリンのこと結構好きじゃないか。

そんなに強化される魔法じゃないんだよね、これ。


本来は。

でもそんな程度の魔法でペリンはとんでもない強化がされている。

マジで。


エアリスの魔力で出来た霧が吹っ飛んで、日が照って来るほどに。

あんたどんだけリナリーンへの想いがあるんだよ。

カッコいいじゃないか。


僕の仕事は魔法の維持だね。

ペリンにもう一度聖魔法をかけて若返らせる。

死んだ時に切れてしまっていたようだ。

愛属性は能力で貰ったから維持は全然大したことないが、聖魔法は自力だから時間制限がある。


とっととやってくれ、我が勇者よ!


腹の部分に何本も、羽根には何本かの剣が刺さったエアリスは飛ぶことをやめた様子だ。


無理をしたら飛べないこともないが、その状態で今のペリンを相手にするのは不可能に感じたからだろう。


「さ、いらっしゃい。

勇者ペリン。

女が来て急激に強くなるなんて気に入らないから、やっつけてあげる。」


龍語でつぶやいた言葉は、ラルフの能力が消えた今はもう誰にも伝わらない。


小さくトン、と一度飛んだペリンはエアリスに向けて走り出した。


ペリンの周りに襲い来る風はリナリーンの土の壁で防がれている。


エアリスまでのトンネルが通っている。

身体も軽い。


ペリンは今回の自分の攻撃は、エアリスに通る、と確信があった。


そのぐらいボンは俺を強化してくれた。

昔と変わらないくらい美しいリナリーンを見て、どこか懐かしく、やはり愛してしまっているのだな、と思った瞬間途轍もない力が湧いて来た。


エアリスはこちらを見ているが反応をしていない様だ、エアリスが追い切れないほどの強化とはな、自分に呆れ半分と、残りの半分は誇らしい気持ちだ。


いや、違う。

エアリスは受けるつもりだ。


エアリスの姿を冷静に見ると、あの美しい龍に沢山の剣が刺さり、傷が出来て痛々しい。

ボンは本当にすごいなぁ。

何年も何年も傷という傷を与えられなかった俺を1日で飛び越えて行った。


…そうか。

殺せるのか、今の俺は。

エアリスを。

友を。



キン、という音と同時にエアリスの身体に刺さっていた剣が全て抜けた。


僕の目には追えていなかったが、ペリンがやった様だ。


しかし、みるみるうちに目視できるほど溢れていたペリンの力は萎んでいった。


「ボン、俺は、俺には無理だ。

自分のために、友に手をかけるなど出来ないのだ。

思えばそれが出来ていれば、愛するリナリーンを傷つけることを覚悟出来ていれば、当時リナリーンと結ばれる道もあったのだ。

それが出来なかったのは、俺のせいだ。


間違っていたのだ。

そのために龍を殺すなど。」


そう言うと思ったよ。

ペリン。

勇者ペリン。


優しさは弱さではないよ。


でも弱さは優しさではないんだよ、ペリン。


僕は屑鉄の剣を一本持ち、全ての維持していた魔法を一度消した。

ペリンは再び老人に戻り、力の奔流は消えた。

身体に負担があったのだろうペリンが膝をつく。

リナリーンも同様で、少し身体が重そうだ。


僕は愛属性魔法をもう一度発動すると、エアリスへと放った。


古い時代では呪魔法と呼ばれたらしいそれは、神が言うには心魔法と呼びたいとのことだった。


一度使ったことで本質がわかった。


これはやりたいことをやらせてあげる魔法だ。

強くなりたければ強く、逆に弱くなりたければ、弱く。


リナリーンを越え、跪くペリンを越えてエアリスの前にたち、剣をエアリスへ向けた。


「やめてくれ、ボン。

もういいのだ。

俺が、俺が弱いのが悪かった。

俺のせいで友が傷つく必要などないのだ。」


そんなペリンを無視してエアリスの目を見る。


そうか、ここね。

ここに剣を突き立てればいいのか。


「やめろ!

やめてくれ!」


僕はエアリスの心臓へ、屑鉄の剣を突き立てた。


すんなり刺さる。


彼女も思っていたのだろう。


ペリンの思いを叶えるならば、自分が弱くなければならないと、愛するペリンと何度も戦う内に実は気がついていたのだ。


気に入らない。

死ぬつもりの龍と弱い弱い勇者。


そんな英雄譚があってたまるか。


剣を抜くとエアリスの身体が赤い光に変わりねじれ、僕の身体へ入ってくる。


そうして身体を通り掌に集まった赤い光。


全てが叶うらしい龍討伐の報酬。

良かった。

本当らしい。


赤い光が問う。

「願いを言え。」


なんでもいいのか?


「願いを言え。

お前は龍を殺した。

お前はこの世の全てに優先される。」


そうか。

なら願うことは一つだ。


赤い光が手から離れ、僕の目の前に集まっていく。

サービスだ。

とびきり美人を想像しておいたよ。


赤い光が収まると、そこに1人の美しい女が立っていた。


「ありがとう、ラルフ。」


そう言って彼女は走り出す。


良かったな、エアリス。

勇者の胸へ飛び込んでいけ。


今なら、人間になった今なら優しく受け止めてもらえるよ。

彼は優しさのせいで弱くも強い、本物の勇者だから。

君はもう、強大な力と質量を持つ、優しく動いても全てを破壊する龍ではないのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る