第76話 嫋々のドラゴン、エアリス
目が覚めると、すっごく近くでペリンさんが覗き込んでいた。
迂闊だったか?
真面目そうな人ほど危ないって言うもんな…。
「ボンは、神の使いか?」
えっ!
寝てる間に光ったりしてるの?
変な機能ついてる?
…神様なんかした?
神様になんかして欲しいって言われた事ないし…。
ふわっとタナの時に、神性を持ちながらそも道から外れそうな者の手助けになればいいなぁくらいの気持ちだったらしい事は聞いたけど、コレって理由はなかった。
前世の人間性が気に入ったとかなんとか言ってたけど、それは理由じゃないよな。
今度聞いてみよう。
よって僕は使者じゃない!
…違いますー。
考えすぎて間があいて変な感じになったな…。
違うんですよ?
本当に!
知り合いだけど、使者じゃないんですよ!
「そうか。」
それだけ言うと僕の頭を撫でて、行くか、と言った。
やめてよ!
それは、理由があるんだろう、深く聞かないからな、の、そうか。
じゃないか。
まぁいいさ。
実際違うんだから。
その内誤解も解けるでしょう。
夜のうちはわからなかったが、ペリンさんの拠点は意外とちゃんとした所だった。
落ちて来た僕はよくわかって居なかったが、家部分は洞穴で、奥に行くと水が湧いている。
外から見えて居た火は入り口から少し離れた所に解体しかかった動物がおり、それを処理する用のものだったようだ。
小さいけど畑もあるし、よく見ると生活感があるね。
片方には細い道があり、もう片方には太い道があり、太い方が龍へと続く道の様だ。
細い方をいくと人里があるらしく、そこへ肉や鉱石を持っていき、粗末な剣と塩と交換しているらしかった。
…なんで龍へ繋がる道の方が太いんだよ…。
通った数が人里より龍の方が多いって事でしょ?
龍への道を歩いていくと、山と山がぶつかって居る様なところへ辿り着いた。
「山の境に隙間があるだろう?
あそこが龍の棲家だ。
いきなり襲ってくる事はないぞ、そんなに悪いやつじゃないんだ。」
隙間には霧の様なものが充満しており、それは龍の膨大な魔力が可視化されたもののようだ。
おいおい。
ここから感じるだけでお父さんの50倍くらい魔力あるぞ…。
「怖いか、ボン。
それが正しい、それで良いんだ。
さ、行くぞ、良いやつだから。」
良いやつだから大丈夫と思えるのはおかしいよ。
初めはここに居る龍がどんな奴か分からないで挑んだんでしょ?
やっべぇなこの人。
でもなんか、信じられるな。
僕はカッコいいモノを信じるタチなのだ。
ペリンさんは、カッコいい。
魔力の霧を抜けると、草原が広がっていた。
心地よい風が吹き、今までいた森とも気候や植生まで違う様だ。
「綺麗な場所だろう?
俺も気に入って居るんだが、アイツの魔力の影響らしいぞ。
名前だけは伝わって居るぞ。
嫋々のドラゴン、エアリス。
優しい、風の龍だ。」
僕の目の前に岩に、羽毛をそよそよと揺らし真珠色に近い緑色をした龍が座り、こちらを見ていた。
オーロラを見た時、故郷を出る時電車から見た風景、そして初めて神様を見た時、こんな気持ちになったな、と思った。
しかし、その龍が喋りかけて来た時、全ての畏怖や尊敬やなんかそんな様な気持ちが、かき消えた。
「ダーリンのお友達?
私はエアリス。
よろしくね。」
…ダーリン?
そう、かき消えてしまった。
風で吹き飛ばされた様に。
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