第75話 ペリン
「どこから来たのだ、ボン。
この辺には何もないだろう。
…魔女の村に拐われて来たのか?」
…拐われては…いないよね。
土魔法を習いに来たんだ。
シーさんって家族がいて、その師匠のリナリーンに。
「…そうか。
リナリーンは元気か?」
うん。
元気だったよ。
すっごい強かった。
「!?
…そうか。
元気ならいいんだ。
俺はな、ペリンと言うんだ。
リナリーンの昔馴染みでな。
俺も昔リナリーンにやられてな。
鍛え直しているのだ。」
え?僕は勝ったよ。
言わないけど。
やっぱりペリンさんか。
ペリンさんはこんな森の奥で何してるの?
「ん?あぁ…。
ここを少し言ったところにな、龍が住んでいるのだ。
獣の竜は昔倒したことがあるから、やれるかと思って来たんだが、まぁ強い。
何年経ったか分からないが、未だ勝てていないのだ。」
…龍を倒そうとしているのか。
人間に勝てるものではないって神様は言っていたけど、ペリンさんは何歳から挑み続けたか知らないけど、何年も死んでいない。
凄いな。
尊敬するよ。
挑み続けたことに。
僕も龍に会いに来たんだ。
リナリーンが役目を背負っているって聞いてね、話を聞けないかと思ってさ。
「似たような理由だな。
俺は龍を倒したらリナリーンに想いを告げようと思ってな。」
本当に勇者じゃないか。
大真面目に明後日の方へ走っている。
全力で。
きっとこの熱意で直接リナリーンに当たっていたら、うまくいっていたんだろうに。
僕も連れて行ってよ、龍と会いたいんだ。
「…いいぞ。
子供を無闇に傷つけるような奴ではない。
朝になってからにしよう。
俺が起きて居るから、ボンは寝とけ。」
正直クタクタだったんだ。
リナリーンと戦ってそのまま来たから。
お言葉に甘えて寝させて貰おう。
…
……
………
「そうか、リナリーンは元気か。」
もう大分待たせてしまったな。
…
……
………
俺と結婚して欲しい。
奔放な女だと思っていたが、なぜかその言葉が口から飛び出た。
一番驚いたのは自分だが、リナリーンも驚いていたようだった。
サシュマジュクとシャルルにそのことをいうと、お前はやはり勇者だ、とからかうように言われた。
「私と結婚したからったら、私を打ち負かしな。
あんた、馬鹿みたいに強いんだろ?
私に勝てたら好きにしていいよ。
私に勝てる奴なら村のやつも納得するさ。」
そう言われた俺は、何度もリナリーンと対戦した。
しかし、一度も怪我すら与えられなかった、俺が弱かったのだ。
自分の持つ剣がリナリーンを傷つけると思うと、きちんと剣が振ることが出来なかった。
一度彼女に聞いたことがある。
彼女の村には龍がいて、その龍を祀り、暴走した時のために強くあらねばならない。
「だから私は雑魚を伴侶にする訳にはいかないんだ。
悪いね。
アンタも頑張って強くなんなよ。
待っててやるからさ」
俺にはは、出来ない。
どんなに強くなろうと、例え神に剣が届くようになろうと。
彼女の肌を傷つけることは、この先きっと出来ない。
そこで俺は目的を変えた。
彼女より弱くて良いように。
龍を倒せば縛られるものは無くなるのだから。
リナリーンが去った日そのままその足で旅に出ると、2年ほどを探索に使いそのまま龍に挑み始めた。
塩が切れたり剣が折れれば調達しにいき、獣や果実を狩り、それ以外の時間を龍に挑むか剣の修練に充てた。
そうして何年か経った時、ふと気がついた。
強大な力を持つ龍が自分を決して殺しはしないことに。
鬱陶しいことだったろう。
しかし、最近は怪我すらしなくなっていた。
そうして、俺も龍を友だと感じるようになっていた。
言葉はわからないが、ぽつぽつと自分のことを話し始めた。
そのおかげで、今日まで正気でいられたのだと思う。
そうして何年経ったであろう、今日、龍と話に来たと言う少年がやって来た。
話せると言うのか。
友と、理解し合える可能性があるというのか。
神が使わせてくれたのだ。
そう思う事としよう。
朝まで目を離さぬ様にしよう。
俺が守るのだ。
朝目を覚ましてラルフが、余りに近い所で自分を覗き込むペリンに心臓が止まりそうになった事は言うまでもない。
危うく友と話せなくなる所だったのだ。
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