第73話 困った時の神頼み
アドレナリンが抜けた今、やってしまった感が拭えない。
気絶するリナリーンを抱えて修練場から出てきた僕は、もう冷静になっていた。
今から夢に出来ないだろうか。
無理だよなぁ。
そんな魔法しらないし…。
もう手遅れだ。
乙女の弟子たちが大騒ぎしているからだ。
誰も勝てるなんて思ってなかった少年が、村の魔王を倒して出て来た。
快挙だ。
しかも出て来た時は大人の姿で、とんでもなく美しい男性だった。
もう、村ごとメロメロだ。
逃げようか…。
いや、ダメだ。
相性が良すぎただけで、彼女らに本気で探された場合逃げ切れる訳がない。
ん?でも役目があるんだっけ。
大丈夫か?
でも追われる予感がビンビンする。
格好つけすぎた…。
どうしよう。
今夜からはリナリーンの城で寝る訳にはいかない。
身の危険がある。
100%ではないがある。
お姫様のように待ち続ける人間性があると賭けるか?
そんなの分が悪い…。
リナリーンをベッドまで運んだあと、神様の像まで来て膝を抱えていた。
勝ってしまって逆に居場所がない…。
いや、調子に乗って変な勝ち方をした自分が悪い。
あぁ…神様。
助けて下さい。
僕はこの世界に来て一番真摯に神に祈った。
「ラルフちゃん、こんなところにいたのね。
必死な祈りが届いたわよ。
何してるの?
みんな探してるわよ?」
タナさん!
タナさんじゃないか!
助けて!
助けて下さい。
「どうしたのよ一体…。
とりあえず天界に連れった方がいい?
その方が時間取れるでしょ?」
そうして僕は召された。
今回は完全に逃避だ。
身体は同じところにあるからあんまり意味ないかも知れないけど…。
「いやぁ…。
やりますね、ラルフ。
見てましたよ?
お前に勝てば好きにしていいんだろ?
あっはっは!
カッコいい!
カッコいいですね!」
やめて…やめて下さい!
でも勝つにはあれしか無かったんだよ。
単純な戦闘では手も足も出なかったんだから。
「勝つ必要なんて無かったじゃないですか。
対魔法使いの練習でしょ?
なんでそんなに勝ちたかったんですか。」
え?
…理由なんてないよ。
勝ち筋あるなら試したくなるじゃない。
「お姫様にしちゃったから願いを叶えてあげたくなったんでしょ。」
…う。
「物語のお姫様様は王子が来るけど、現実はそうもいかないですもんね。
そういう子を一杯見て来たんでしょ。
それで戦闘でテンション上がっちゃってやっちゃったんでしょ。」
そうです…。
「婚約者もいるのに…。」
…。
「うふふ。」
揶揄ってるな!
「さ、次の能力は何にしますか?」
貝になる能力を下さい。
「逃げちゃダメよラルフちゃん。」
そうですね。
「そういえば、先ほど真摯に祈られたので、もう人を呼んでしまいましたよ。
丁度サシュマジュクを呼んだ時のように。」
そうなんだ。
ならお父さんが来るの?
「いえ、無理ですよ。
知らないですもん。
サシュマジュクはこの村の場所。」
そうなんだ。
自由に呼び寄せられる訳じゃないのね。
「当然じゃないですか。
私はその人がその日にしようと思っていた行動を捻じ曲げるくらいしか出来ませんよ。」
そりゃそうか。
おかしなことになるもんね。
じゃあ誰を呼んだの?
何とかなるかもって呼んだんでしょ?
「ペリンです。」
あぁ!
お父さんとシャルルさんの同級生ね。
「そうですよ。
ずっと修行していたんです。
20年以上、リナリーンに愛される為に勝つために。」
…リナリーンの性格上その選択は間違ってるでしょう。
何回も挑んだ方が可能性あるんじゃない?
「そうなんですよねぇ…。」
ダメじゃん…。
でもリナリーンも期待してたのに、って言ってたから可能性あったんだよね?
「好き同士だったと思いますよ。
戦闘力で言えばペリンの方が上でしたし。」
え?
でも負けたんでしょ?
リナリーンが20ならペリンは15だって言ってたよ。
「ペリンはリナリーンが見ている前で力を出せた事なんて一度もないです。
メンタル面が…ね。
好きな子が見ていると力み過ぎるタイプで…。」
あぁ…。
ペリンさん…!
会ったこともないのに好きになってきた。
2人を後押しする能力はないの?
「んー。
洗脳とかでないなら難しいですねぇ。」
そういえば、リナリーンさんの役目ってなんなんだろう。
それさえ無くなれば可能性あるのでは?
「役目?
あぁ、あの村でしたか。
あの村は龍を祀っているのですよ。
龍を安寧させ、いざという時に龍と対峙する鍵の巫女の村です。」
普段は龍と仲良くして、龍がおかしくなったら退治するってこと?
「そうですね。
そうなります。」
だから強い人じゃなけりゃダメなのね。
…ならペリンさんが龍を倒せばイケるのでは?
「龍は人間に倒せるものではありません。
私達と互角ですからね。
先ほど言った、ペリンさんが15なら龍は5000くらいありますよ。
あの村は一つの宝具に魔力を溜め続けています。代々、何年もね。
龍が寿命を迎えて狂うのは1000年に一度程度なので、その時に使うまで溜め続けているのです。
宝具もその龍が授けたものらしいですよ。」
はぇー
神話の類だね。
なら今はいざという時に自分が誰にも迷惑をかけないように準備をするような、理性的な龍が居るってことね。
なら、次の能力はアレだ。
異世界初心者パックのアレ。
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