第68話 片腹いたし
夕方になるころ、やっと地面に降りられた。
ただ座っていただけなのに、なんかフラフラする。
「ははっ。
慣れないとふらつくよね。
今日はゆっくり休みな。
あの城が私の家なんだ。
かわいい家だろ?」
おー
なんかミニチュアのお城って感じだ。
確かにかわいい。
不思議とリナリーンさんに似合う気がするね。
「そっかそっか。
なんでそう思うんだい?」
え?いや、だってさ、手首に付けてるチャームとか、マフラーの端のフリルとか、アイテムの端々がいちいち可愛い系なのだ。
鳥に乗っている時はずっと甘い花の香水の香りもしていた。
確かに背が高くキツめの顔だが、靴の先はまん丸で可愛らしく、スカートの中にはパニエが入っておりふんわりしている。
喋り方と、見た目と、アイテムがチグハグだ。
よって僕はこう判断した。
似合う物を選んでるとは言い難いけど、好きな物を好きなだけ集めて身につけているのか、と。
そんな彼女が家にこだわるとこんな感じになるのだろうと、納得がいったのだ。
薄っすら拉致されたかと思ってたけどそんなことはなさそうだ。
可愛らしい人だ!
僕は女の人の見る目があるのだ!
ミニ城に案内されると、玄関にはシャンデリアが吊られており、階段が二つ左右に分かれていた。
床は赤い絨毯でフカフカで、奥にはダイニングがある。
ダイニング横の扉が二つあり、一つは浴室、一つはキッチンで普通のキッチンの中にピザ窯のようなオーブンがあった。
2階はふた部屋で片方は空っぽ、片方は大きなベッドと大きな窓、そこに半円のバルコニーがついていた。
なるほど…。
わかったぞ。
この人の城は物語の中のお姫様の家のそれらしい所をコンパクトにまとめた物だ。
お姫様コスプレハウスだ。
しかし少し気になるな…。
「…なんか変な所あったかい?」
いやね、部屋を見ながら想像していた物が二つ足りないのだ。
あれだ。
猫足のお風呂と、ベッドに付いている天幕がない。
「なんだい、それは。
聞いたことないよ。
ちょっと書いてみることは出来る?」
あんまり絵は上手くないのだけれど…。
天幕はレースとシルクだよな?
それで…四角に垂れさせて…。
そいで、猫足のお風呂は…。
ただバスタブの足がこうくるんとなっているのだ。
「可愛いじゃないか、でもこれには何か意味があるのかい?」
なにを言っているんだ。
お姫様っぽくて可愛い意外の理由がいるのかよ!
「確かにそうだ!
私が間違ってたよ!」
そうだろう!
さぁ、庭に木も植えようじゃないか!
「なんで木なのさ。
あ、土魔法覚えたいと言っていたね。
それは明日にしようよ。」
だめだ!
朝に小鳥に挨拶出来ないじゃないか!
小鳥に挨拶をしないお姫様などいない!
馬鹿にしているのか!
「そうだね!
すぐ植えようじゃないか!」
楽しくなって来たぞ!
小児科医を舐めるなよ!
俺はな、入院した子供を山ほど見て来たんだ!
小さい女の子の心の支えはお姫様だった。
それを実現出来る能力があるのなら妥協なんてさせてたまるか!
憧れさせるのだ。
明日はメイクと髪型と喋り方を治してやる!
はははははは!
あ、その前に庭で剣術の練習していいですか?
日課なのでやらないと気持ち悪くて。
おい貴様!
後ろで見ているなど2流だ。
バルコニーからそっと見ていろ!
主張をせずにな。
飽きたら去るのだ。
お姫様だからな。
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