第64話 神様の嘘


「いや、ダメですよ。

頭なんかしまっちゃったら。

死んじゃうでしょ。」


え?

死んだの?

頭なんてしまってないよ!


生き物は入らないもんじゃないの?

危ないよ!

家の人入っちゃうかもれないって思ったけど、それはないだろうと、安全装置的なのついてるだろうと思いなおしてたんだけど!


「いやいや。

もし生き物が入らないとすると、あそこにはなーんにも入らないですよ。

貴方の持ち物にどれだけの微生物がついていると思っているんですか。」


…たしかに!


「私は神ですからね。

彼らを生き物じゃないなんて言えません。


それで?閉じ方ですか?

そんなのマジックバッグオープンって言って出したんだからマジックバッグクローズに決まっているじゃないですか。」


…たしかに!

穴の存在感が強すぎて『マジックバッグ』感がめちゃくちゃ薄くなってた。

怖い穴って名前の能力だったらそのワード出てたよ。


それで?どうやってペンとか取り出すの?


「え?

出せませんよ。

空間に穴をあけるってどう言うことか分かってます?

あれは重力の塊、小さなブラックホールですよ?

別の方法で空間に穴を開けるって言ったって、それはどれも高エネルギー体ですよ。


そもそもあなた無限に入れるとは言ってたけど、出すなんて言ってないでしょう。

時間が止まった空間っていうから、確実に息の根を止める攻撃魔法だと思ってましたよ、私は。」


…たしかに!

言ってない!

でも入れたら出すでしょうよ。

摂理でしょうが!

神に摂理を説く無謀さは分かっているけども。


つまり僕はブラックホール生成の能力にマジックバッグという名前を付けて頂いたってことね。

ガバいって。


ところで、僕が想像した無限倉庫みたいなものってあるの?


「ないですよ。

持ち運べる鞄に無限に入るとしたら、その質量はどこに行くんですか。

例えば現実にある倉庫に飛ばすとかでも、空間を歪める穴を任意の場所に繋げるなんてとんでもない計算能力ですよ。

ラルフは瞬間移動でその難しさを認識したでしょ。

穴自体エネルギーの塊なので安全なわけないですしね。

宇宙にすっ飛ばしていいなら可能かもしれませんが、やはり取り出せませんしね。」


あぁ、お気に入りのペンとノートと枕…

永遠に失ってしまった…。

会計のルーベンスさんに謝って新しいの買わなきゃな…。 


じゃあこの世界に空間魔法的なものはないのね。

ワープとかマジックバッグの魔法みたいなやつは。


「攻撃魔法としてはあり得るかもしれませんが…。

空間が歪むほどの高エネルギーならそれをそのままぶつけた方が効率がいいですよね。」


そうね。

それはそう。


異世界初心者パックの何もうまく行ってない気がするよ。

あ、鑑定は神さえ鑑定しなきゃうまくいってたのか。


「あれは大変そうでしたね。

知の神が。」


え?オート表示じゃないの?


「そんなわけないでしょ。

情報なんて刻一刻と変化するんですから。

貴方の知りたいことを知の神が教えてくれてただけです。

私がお願いしたんですよ、なんとか。」


迷惑かけてた。

神に質問しまくる能力だったのね。

うわー。悪いことしたな…。


次は人に迷惑かけない能力がいいな…。


「なにも思い浮かばないなら、私お願いしたいことあるんだけど、いい?」


いいですよ。

なんですか?


「石碑の周りの花が元気なくなって来てるの。

あそこは元々小さな神域だったから花が枯れなかったんだけど、私こっち来ちゃったでしょう?

普通の花畑なのよ。

出来れば土魔法とかで元気にしてあげて欲しいの。

好きな場所だったから。」


花を咲かせる能力か

いいじゃない。


「決まりましたね。

では次の能力は、土属性魔法です。

では、幸せな人生を。」


……

………


「あなた、嘘をついたわね。」


「え?なんですか?

どれですか?」


「ここって別の空間よね。」


「あぁ、そういう事ですか。

そうですね。

別の空間です。

確かに時間の流れもおかしいところですね。


あぁ!

ラルフは神域を下さいって言っていたのですか。

いやー、流石にそれは無理ですよ。」


「ダメなの?

それくらい、いいじゃない。」


「ダメ、というより出来ないんですよ。

前に説明した通り、神っていうのは、現象に信仰が起こって意識を得た存在ですからね。


神域もそれにくっついているに過ぎないんです。

貴女にもありますよ、神域。」


「それは知ってるけど、あの子がここに物を投げ込むようには出来るでしょう。」


「…出来ますね。」


「取り出しは?」


「私が運べば…。」


「嫌なんだ。」


「嫌なんです…」


神様は目を逸らした。

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