第60話 決闘後に


剣聖に抱かれ会場をあとにする、気絶した次期剣聖となるであろう少年。

そしてそれに心配そうについて行く聖女と呼ばれる美しい女の子。


圧倒した決闘から、婚約者を傍に抱き寄せながら天からの祝福があったこと、剣聖との死闘や使っていた木剣のメーカーや足のサイズまで。


それはそれはもうセンセーショナルに報道された。

吟遊詩人は歌にして、新聞屋は普段やらない絵までつけて、一面で採用した。


見に行ったもの達は大袈裟に様子を語り、その話は他国へと渡って行ったのだった。


5日で。

まだ終わってから5日しか経っていないのに。


なぜ他国へと渡ったのが分かるのか。

手紙や送りものが届いたのだ。

隣国のお姫様や、教会本山の偉いらしい人から。


一番遠いところだと、馬で4日ほど離れているところからの贈り物だった。

計算が合わないくらい早い。


普段使っていた、家の隅にあった木剣。

それは一応ブランド物だったらしく、そこから使っていることへのお礼の手紙と柄頭に白い花の意匠がついた特製の木剣が送られて来た。


片道4日の距離を5日で往復して、シグネチャー木剣まで用意する。

メーカーの本気をみた。

これからも同じところを使おう。


ここまでは伝聞だ。

何故なら僕は気絶したまま屋敷へと帰って来たあと2日ほど眠り続けて、それからまだ外に出ていないのだ。

この3年で外出する習慣を完全に失っていた僕は、目が覚めた次の日からまた普通に練習を始めていた。

日課になっていたので、やらないと気持ち悪くなっていたのだ。


しかし今日の新聞を見て、事情が変わった。


「神の子ラルフってなんなんだよ…。」


慌ててお父さんを探しているがおらず、ララさんに訊ねると、なんと兵舎を襲撃して王城へ行ったままになっているとのことだった。


なんで?

警察に捕まってるみたいなかんじ?


僕とシャルルさんの対戦中、家族全員がお父さんにしがみついて乱入を止めていた。

握りすぎた手のひらからは血が流れ、食いしばりすぎた奥歯は砕けていた。


しかし僕が死魔法を使い善戦し始めると、声の限りを超えて応援し続けて、完全に喋られ無くなるほど喉を潰したらしい。


…死魔法を使ってからの戦闘時間って2分か3分くらいだよね…?


「そうよ、先生ったらその短時間でカッスカスの声になっちゃったんだから。」


と、あとでララさんに聞いた。


終わった後はそのカッスカスの声で、帰ったらたくさん褒めてあげような、と言うくらいご機嫌だったのだが、次の日に豹変した。


絵姿付きの新聞を観た後だ。


溺愛する息子との2ショット絵姿に憧れていたお父さんは、キレた。

ここまで我慢に我慢を重ねて、ギリギリでシャルルを襲撃していなかったが、自分より先に2ショット絵姿になった怨敵にブチギレた。


爆発しちゃったのだ。


アンヌとの2ショットなら切り抜いて額に入れていたであろう姿絵を燃やして、表情のない笑顔で出かけていくと、そのままシャルルさんを襲撃したのだった。


国内トップ魔法使いと剣士の戦いは練兵場で突如始まり、兵舎まわりを破壊し尽くし、最後にはシャルルが気絶し、ジェマが勝った。

若くなり気力に溢れて居ること、ラルフ戦のすぐ後でシャルルが気力も体力も萎えていたところだったというのが勝敗を決めた。


これにより困ったことが起こった。


超強い魔法使いが冷静になったころ、その場にいた兵士たちはこう思った。


「…誰だ?」


戦っていた様子からサシュマジュク様かと思って、いつもの二人の喧嘩かと思ったら、サシュマジュク様っぽいけど明らかに若い、知らない人だった。


そこに共に訓練中だったカルとブランドたちが駆けつけたのだが、それにも問題があった。


具体的に言えば「たち」の部分に問題があった。


その人物は、カルやブランドと同年代で仲が良く、やめてくださいと周りに言われているのに抜け出して剣の練習をする男。


そう、お前が言うんかい!でお馴染み、気鋭の王様、フリーディンがいたのだ。


兵士だけなら問題はなかった。

いつものことだし、私はサシュマジュクの息子だなんだとか煙にまいて、修理費用を支払って終わりだった。


しかし誤魔化し、もみ消すには厄介な相手がそこに居て、横にいるバカ二人が、サシュマジュク様!何やっているんですか!なんて言ってしまったのだ。


そうして連行されて行ったジェマことサシュマジュクだったが、王様や偉い人への説明で、神がラルフを育てさせるために私を若返らせた。


なんて言っちゃったのだ。


当然のことだが、サシュマジュクは若返った理由が分かっていなかった。


しかし頭の中で、ラルフがあまりに可愛くなって行くうちに、ラルフが来てくれて嬉しい。


から、ラルフが私の元に来た運命に感謝!


となり、ラルフが私の元に来たのは神からの運命で、ラルフを育てさせるために老いた私を若返らせたのだ!

と、思考が2段階進化していた。


ラルフがいかに神聖かとの吟遊詩人もビックリな演出を加えながらの妄想を、昨日の後遺症でカスカスの声で熱弁してしまったのだ。


ここにいる偉い人達は決闘にもいたし、祝福される様子も観ていたので、なんか納得してしまっていた。


そうして、昨日の決闘で、サシュマジュクの孫と言う無難な二つ名から昇格した豪華な二つ名、聖剣士というキラキラ称号から、

ラルフが寝込む間に、更に不本意で、豪華な二つ名、神の子という称号を頂いてしまった。


まさに、父と神からの祝福の結果である。

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