第59話 楽しい楽しい剣の時間


ははっ

割と動かしてきたとはいえ慣れねーちびっ子の身体より馴染むってもんだ。


俺は自分から爺さんの懐に飛び込む。

今までは体重差のせいで選べなかった選択肢だ。

それでも剣技は圧倒的に爺さんが上だ。

ま、そりゃそうだ。

年季が違うってな。

それでもやっぱり調子がいい。

目で追えているし、身体はキレてる。


今までせばまった選択肢の中から更に狭くなっていて、逃げ場がなくなっていたが、受けられる、それだけで被弾すらも減っている。


はっはっは!

打ち合えるっていいな!

爺さん!


「シャシャシャシャ!

いいじゃないですか!

芯まで来ますよ!」


なんだ、余裕じゃねーか。

でもな、今まで出来なかったこともあるんだぜ?

打ち合えるってことは近づけるってことだ。

近距離でな。

さ、くらいな。


俺は風魔法に火魔法を載せて放った。

こっちには聖魔法があんだから多少の火傷は織り込み済みだ。


喰らえ!

火炎旋風だ。

燃えて全裸になりな!

妖怪ジジイが!


「おい、忘れてるんじゃないか?

ワシは何処の所属だと思っている。」


おー

聖騎士団長様だったな!

聖魔法はお手のものね。

はっは!

素が出て来てるぜ爺さん。

指導モードはどうしたんだよ。


俺は距離を取りながら野球ボールほどの土を生み出し、シャルルへと投げる。


「ほら、変化球なんてもん見たことないだろ、曲がるぜ、避けてみなよ。」


爺さんは的確に剣で切り飛ばし、近づいてくる。

やるじゃない、あんたいいバッターになれるよ。

贔屓のチームに入ってくれたらよかったのに。

贔屓のチーム?

ヤクルトと日ハムだ。


でも残念だったな、一つはハズレだ。


土魔法で固めたボールのなかに水を入れて、カンカンに熱したそれは、衝撃を与えると水蒸気爆発を起こす爆弾だ。

衝撃も中々だろうし、真っ白で対応も遅れる。

目眩しの間に踏み込むと、やっと一撃綺麗に入った。

左手に剣の傷がある。

へっへ。

やってやったぜ。


「驚いたろ?」


やっと一撃いれられたな。

一矢報いたってやつだ。


そして、それで終わりだ。

剣に纏わせた風魔法で、切り傷から空気を送り込んだ。

大した量じゃないが、爺さんの固くなった血管には致命的だろ。


「…?

こんな手があるのか。

シャシャシャシャ。」


腕から上がっていく空気に気がついた爺さんは血管を自分で斬り、空気を押し出して対処した。


「どうやったら気がつくんだよ、妖怪め。」


「お前もデカくなって態度が悪くなってないか?

生意気になりおって。

楽しいの!」


確かに楽しくなってるよ。



その後も斬っては斬られ治しながら、魔法で隙を出させると、お返しに聖魔法の光で目潰しをされたり、楽しく戦っていた。


そんな剣戟の中、爺さんのなんの変哲もない横薙ぎを受けようとした時、俺の身体に異変が起きた。


「ありゃ?」


クラっとしたかと思うと身体が縮み、力が入らなくなった。

なんだ、時間切れか…。


受け止め切れずに剣ごと押し込まれた僕は、そのまま気を失ってしまった。


くそー!

もう何個か手を考えていたのになぁ…。

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