第58話 裏ボス
僕の目の前には妖怪が立っている。
上裸になりムキムキで、白髪混じりの髪を結んだ剣を持つ妖怪、通称シャルルだ。
会場は緊張感で静まり返っている。
誰か茶化してぐだぐだにして帰ろうよ。
全部この爺さんが始めた茶番なんだから。
はぁ…。
強いんだろうな…。
意味のない戦いだよ。
「それではこれより、聖剣士ラルフ対元聖騎士団長シャルルの試合を行う。
両者構えて!
始めっ!!」
なんか称号ついちゃってなかった!?
剣を持つシャルルは何処を見ているかわからない目をしながら剣先をユラユラさせていた。
ラルフは2.3度小さく跳ねてから、隠すように魔法を設置した。
目に見え辛い風の塊を何個も発動しておいて、少しでも隙に繋がればいいなと思ったのだ。
そのうちの一つをシャルルに飛ばすと、剣の腹で叩かれこっちへ跳ね返ってきた。
それを小さく動いて避けると、目の前に剣があった。
その風の玉を追うようにシャルルが弾け飛ぶように近づきラルフへと斬りかかってきたのだ。
シャルルの剣をギリギリ避けたが、脇腹に痛みを感じる。
設置した隠れた風を斬りながら、ラルフの死角に弾いていたようだ。
つっよ!
今の少しだけでわかったよ。
今まで会った人の中でダントツで強いわ。
でもなんか今日は調子がいいな。
良く見えるし、良く動ける。
本人はよくわかっていないが、祝福で加護の力が強まっているラルフは一時的に人間を辞めた強さになっている。
加護の効果は神の与える能力と比べるまでもなく弱いものだが、補助としては優秀で祝福中のラルフなら、ブランドにもルーベンスにも確実に勝てる。
しかしそれでもシャルルは強く感じる。
「シャシャシャシャ、やりますね、ラルフ。
楽しいですよ!
シャシャシャシャ!」
そう、この爺さんはとっくに人間を辞めているのである。
はっやいな!
全く!
今の僕に出来ることは小さい魔法で牽制しながら防いで、ちまちま攻撃することぐらいだ…。
それでも攻撃は当てられるし、こっちの攻撃はきちんと当たらない…。
手順も美しく、受け続けると何撃目かに絶対受け切れないタイミングで攻撃が来る。
防ぎながら吹っ飛ばされ、体力も削られる。
この小さい身体が恨めしい。
何か出来ることはないか?
今までの能力でヒントはないだろうか…!
家族から声援が聞こえる。
せめて一発くらいかましてかっこいいところを見せたいな。
練習にみんな付き合ってくれたのだ、3年も。
家族か。
…一つやれる事があるな。
まずは距離を取らないと。
この爺さんは楽しそうなことを邪魔しない。
さっきから工夫をしようとすると受けてから返している。
時間は得られる。
足元の石を剣の腹で飛ばしてシャルルへと飛ばした瞬間に大きく距離をとる。
剣を足元に刺して、魔法に集中した。
爺さんはニヤニヤしながら様子を見ている。
やっぱりやらせてくれるのか。
この属性自体久しぶりに使う。
でもこの何年かで使われているところは何度も見ている。
僕と神様のせいで若返ったお父さんが、どうしても元の年齢の姿が必要な時に、ティナがかけていた死属性魔法。
その度に迷惑かけてしまったなぁ、なんて思っていたのだ。
10歳分くらい老ければ、成長する事が出来れば、もう少しなんとかなるんじゃないか?
死属性魔法特有の紫色のモヤに包まれた俺は、25歳くらいの肉体になっていた。
おー!
サンキュー、ティナ!
見てなかったら発想にもなかったな。
「ほっほ。
珍しい属性魔法ですね。
しかし、慣れない身体になって動けますかね。
力やスピードは上がるかもしれませんが…
ガッカリさせるなよ?」
バカ言え、誰に言ってんだ。
もうちょい歳は行ってたけど、このくらいの身体の方が慣れてんだよ。
俺はな。
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