第56話 あんたが始めるのかい
「そろそろ準備をお願いいたします、ラルフ様。」
係の人がそう言って舞台までも道を先導してくれた。
「さあ、舞台へどうぞ。
ご武運を!」
係の人にさえ気圧されてるよ、僕は。
舞台へ入ると、ドッという歓声に正直引きながら中央へと歩いていった初めて見るラルフに、観客達は様々な感想をもった。
その中でも教会長は、ラルフィードと瓜二つの容姿に大変驚き、仕事柄賭けていないことに安堵した。
賭けるなら相手方で、ちょっと不敬な気がしちゃったからだ。
綺麗な容姿のラルフは観客に受け入れられた、がオッズが物語る本音は、勝てはしないだろうなというものだった。
実際の賭け数でいえばオッズ以上に偏っていた。
ラルフの一つの賭け金が大きいので最終的に3:7くらいで落ち着いたが、実数は0.5:9.5くらい差があった。
しかし、彼の家族たちは落ち着いたもので、彼を長らく指導していたルーベンスとブランドは正直負けることはないだろうな、と思っていた。
ルーベンスは、ゴールデンエイジと呼ばれる神経伝達の成長期にイカれた特訓をしているラルフと何度も対峙しており、時折技術で上回るラルフに、身体が出来上がったら並ぶものは居ないだろうと思っていた。
ブランドも同様で、むしろ大人の大会に出てみても良いところまで行くのではと思っていた。
よって他の家族と違いご祝儀的な賭け金ではなく、剣士の二人は一撃に賭けて負けたら生活に支障が出そうな金額をラルフに賭けていた。
しかし、彼らはダメな大人ではない。
確実に儲かる方へ賭ける堅実な投資家なのだ、と本人達は思っているタイプのダメな大人である。
ララ、シー、ティナの女性チームは、ラルフが負ける事なんて考えられなかった。
もし負けたら相手の家を襲撃して有耶無耶にしようとも思っていた。
あんなに頑張っていた皆の弟が負けるなんて世界の方が間違っているので、とりあえず神を滅ぼそうとも思った。
勝手にラルフの肩に世界の命運がかかったのだ。
ジェマは緊張し過ぎておじいちゃんに戻りそうだ。
朝から数えきれないほどトイレに行っている。
先ほど冷静にラルフに声を掛けられたことを誰か褒めてあげて欲しいくらいだ。
開始直前の今は、オエオエとえずいている。
僕が舞台中央へ行くと相手がもう待っており、なぜか怒りの形相をしていた。
僕が何したっていうのだ。
「貴様にアンヌ嬢は渡さんからな!」
声でっか!
「アンヌを物みたいに言わないでよ。
大切な友達なんだ。」
「両者とも、準備はよろしいですね?」
どうぞ、この意味のわからない決闘をさっさと終わらそう。
「それではこれから決闘を始めます。
内容は、アンヌ嬢との婚約を賭けて。
参ったと言うか、決着するまで試合は続きます。
もし殺傷してしまった場合は必ず一回は相手の墓へ参ってください。
では離れてください。」
え?
殺しちゃダメとかじゃないの?
墓へ参れって…。
倫理観どうなってんのさ。
ルール説明短いし、禁止事項とかないの?
魔法は?使っていいの?
そういえば誰も決闘のマナーとか教えてくれてないや。
…最初に強く当たって後は流れで頑張ろう。
あ、アレが王様かな?
冠をかぶってる人。
意外と若いのね。
んー。
隣にシャルルさんとアンヌがいるね。
アンヌが心配そうに見ているな…。
変な顔しとこう。
あ、ちょっと笑った。
ふふ、頑張るからね。
あ、王様が立ち上がった。
なんだ?挨拶とか?
「それでは決闘を開始する!
ラルフ!
ベジェリン!
両者構え!
始めっ!!」
予想外のタイミングで始まった決闘に、僕は急いで剣を構えた。
そしてジリジリと迫る相手の名前をここに来て初めて聞いたことを思い出したのだった。
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