第54話 ほうれんそう


「タナさん、どう思う?これ。

なんだってこんなことになったんだと思う?」


今更外出禁止もないので決闘の前日、僕はハズレの教会に来ていた。


これまでも全く外出していないわけではなく、このハズレの教会にはよく来ていた。


ブランド、アンヌ、そしてアンヌママのマニエールさんと共に鐘を鳴らす仕事について来てお祈りをしていたのだった。


マニエールさんのの家系が鐘守で、そちらの仕事があるついでに、ブランドさんの護衛付きで教会に来ることが出来ていたのだ。


マニエールさんはおっとりした女性で、今回の件もあらあら、おめでとうアンヌちゃんとだけ言って、それからは僕のことを息子扱いしている。


あとで分かったことだが、アンヌとブランドさんが屋敷で一緒に修行をして、家にマニエールさん一人でいるときに布教が完了していたらしかった。


「ラルフちゃん、そもそもね?

強い子が大好きなお爺さんには剣に興味ないふりしなくちゃいけなかったんじゃない?

お爺さんをしのげるようにって、どんどん強くなっていく子供なんて大好物に決まっているじゃない。」


何で3年間も誰も気が付かなかったんだ!


「ティナもこの間、弟に婚約者が出来るかも!

いい子だよ!って言って行ったわよ。

貴方、外堀を完全に埋められているじゃない。」


おぉ…。

面目ない…。


「どうする?

神様に会っていく?

貴方の祈りで私の神格も上がったから死なないで連れて行けると思うわよ?」


そうなの?

死なないの?

じゃあお願いしようかな。

祈りの能力は気に入っていたんだ。

瞑想にもなるし、タナさんと神様に報告するのが日課になってたからやり甲斐もあったし。


目をつぶり、タナさんに委ねると


「あっ」


という声が聞こえた。


ダメだよ!

神様と医者のあっ、だけは!


…。


「死にましたよ。」


ですよね。

そんな気はしたんです。


「ラルフちゃん、召され易すぎよ。

魂ガバガバじゃない。

スルッと死んじゃったわ。」


そんなこと言われても、大丈夫っていうから…。


「ま、いいんじゃないですか?

今更騒いでも仕方がないし、ね。


お久しぶりですね、ラルフ。

大きくなりましたね。

こう言うのもなんですが、会いたかったですよ。」


うん。

久しぶり、神様。

僕も会いたかったよ。


「決闘をするらしいじゃないですか。

どうします?

剣術の能力を持っていきますか?」


いや、やめておくよ。

相手もいるし、僕も3年間頑張ったんだから。

負けることは考えないことにするよ。


「そうですね。

自分の力で頑張る時ですね。


なら今回は戦闘に関する能力はやめておきましょうね。

今回、私に能力任せてみませんか?」


知能の時みたいな感じか!

あの時も必要な能力くれたし、任せてみちゃおっかな!


「うん。

では能力を与えておきますね。

戦闘の能力ではないので、存分に戦って下さい。

応援してますよ。

次の能力は祝福です。

頑張って下さいね。」


神様からの応援なんて贅沢だね。

祝福か…。

中身は想像がつかないけど、危なくなさそうだ。

ちょっと安心だね。


ラルフが光に包まれたあと、タナは気になったことをラルフィードに尋ねた。


「祝福ってなに?

あの子全然気にしてなかったけど、なんか不安なんだけど。」


「あぁ、本来一時的に加護を強める使徒用の能力なんですけど、ラルフには加護を与えていないのでただ空が光るだけですね。

婚約のお祝いにちょうどいいかと思いまして。


剣を上に掲げると空が光ってラルフを照らすだけの能力ですからね。」


「加護…あるわよ。」


「え?

貴女の加護は知っていますが、そんなに強いものではないでしょう?」


「ええ。

でも、加護をあげた時に知ったんだけど、あの子もう一つあるわよ。」


「え?

ラルフに関わりのある神はそんな何柱もいないですよ?」


「じゃあ前世の神様かしらね、獣の神様ヤイシャって言うんだけど…。」


「…私が神にしましたね。」


「…貴方の祝福は他の神の加護は強くならないのよね。」


「多分…?」


「ちょっと!

加護ってなんなの?

私もあげといて今更だけど。」


「神によって違うんですよねぇ

タナの加護はもう一度発動してますよ?

ほら、シャルルが襲って来た時に、ゆっくり感じたって言ってたでしょ?

アレです、アレ。」


「あら、ラルフを一度守れたのね。

命を守るのに便利そうな能力ね。」


「そうですね。

ラルフが速く動けるわけではないんですがね。

認識だけがちょっとだけゆっくりになるみたいですね。」


「それで?

ヤイシャちゃんの加護は?」


「えーと?

どれどれ?


んー。

…いざという時に、速く動けるようですね。

野生動物の神ですので、信仰者に逃げられるような能力になるのでしょうね。」


「ふーん。

じゃあラルフちゃんの加護が発動したら、周りが遅くなって、ラルフちゃんは速くなるのね。」


「本人的にはそうですね。

相対的にはすごく上手く動けるようになるように見える程度ではないでしょうか。」


「祝福はそれを強化するのね。

ラルフちゃんがすっごく速くなって、周りがすっごく遅くなると…。

それに勝てる人いるの?」


「…人間に限界なんてありません。

それに私以外の加護が強くなるかは分かりません。

さ、ラルフを応援しましょうか!

友の晴れ舞台ですよ!」


「はぁ。

そうね。

祝福を受けないとちょっと速くなってちょっと遅くするだけだもんね。

私たちの加護には効かないかもしれないし…

ま、変なことにはならないでしょ。」


タナは知らないのだ。

これまで神とラルフの組み合わせは、変なことにしかなっていないことを。

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