第53話 みんな困ってる


僕は困っていた。

お父さんも困っていたし、アンヌもブランドさんも困っていた。


溢れる困りごと、まず僕からいこうかね。 


僕はまずいきなり大衆の前で決闘なんで意味のわからないものに駆り出されたことに困った。

これは一番シンプルだ。


裏の色々な噂とか、そういうのはもうどうにもならないし、お父さんに着いて行って顔合わせとか誰も考えてなかったのか?とか後悔はあるけど、一番の問題ごとは決闘だ。


そもそも僕は強いのかどうかもわからないのに、いきなり試合。

人質もあり断れないし、公式戦。

どうなってんだ全く、である。


次、アンヌの困りごと。


本人をよそに降って沸いた婚約者騒動。


それも祖父の策略によって外堀だけがバッチリがっちり埋められていることが発覚した。


そしてラルフは同じく何も知らなかったのでまだいい、問題は聖騎士団長の息子である。


現時点で好感度は地の底だ。


思い込みで決闘なんて騒動を始めた挙句、祖父のサインをつけて送る考えなし、信じられない!が感想である。


祖父のサインのせいで公式戦になってラルフに迷惑がかかることが確定したのだ。


こちらもどうなってんだ全く、である。


次ブランドさん。


まず親父がまたやらかしたことだ。


しかも相手が迷惑をかけて、3年も軟禁生活をさせてしまって、罪滅ぼしのために修行相手をかって出ていた、謝罪相手だ。

何度も一緒に練習をしているうちに当然ラルフがかわいくなって来ており、親父の見る目もなかなかじゃねぇか、何で思ってた矢先だ。


マジですまねぇラルフ。


彼はこの2日で比喩じゃなく100回くらい言っていた。


ハゲそうだ。


ところが困りごとは頭髪ではなく、相手が聖騎士団長の息子ということだ。



騎士団に入る前から、ブランドは聖騎士団長になれる器だったし、前聖騎士団長の息子で、大会などの実績もあった。


よってブランドが次期聖騎士団長になるものだとみんな思っていた。


しかしブランドは騎士団の道を選んだ。


ブランドからしたら、親父の信奉者だらけで、シャルルの息子としてやっていくのは、男のプライドが許さなかった。


そうして騎士団に入り出世していく中で、ブランドの想いを尊重するものいたし、格として落ちる騎士団へ行ったことを逃げたと思っているものもいた。


小さな嫌がらせはあったが、ブランドは自分で選んだ道なので気にはしていなかったが、ある年の剣技大会の決勝で、現聖騎士団長と当たってしまった。


接戦だったがブランドが勝った。

似た剣技で似た戦術、同門なんだなという感じがして嬉しかったし、安心した。

俺が聖騎士団に行かなくてもいい男が居るではないかと、この人は同じ剣で育った兄みたいなものか、そう思ったのだった。


互いに正々堂々と戦ったので、思うところは何もなく、むしろ友になれるだろうかなんて考えていたがそうはならなかった。


卑怯者、と言ったのだ。

小さく、誰にも聞こえない声だったがたしかにブランドに届いた時、尊敬の念を抱いてすらいたこの男を一気に嫌いになってしまった。


それからブランドも反目する態度を取るようになり、現在では兵士の中では有名なほど仲が悪いのだ。


神聖なる大会での決勝勝者を讃えるでもなく、貶した。

そいつの息子に娘をやるなんて腑が煮え繰り返る思いだ。


しかしラルフに勝ってくれ!とは言えない。


こちらはどうなってんだ!

ではない!

何やってくれてんだ!親父!である。


最後にお父さん、ジェマだ。


ラルフが学園に通っていない理由、それは彼の容姿にある。

神職者が見れば一目でラルフィード様に似ている!と思うからだ。

それによる、政治的面倒に巻き込まれないように、聖職者コースもある学園を避けていた。


少し大きくなった今なんもその印象は変わらず、むしろ逞しくなって来たことで説得力さえある。

その美しく神々しいラルフを衆目に晒すことになるなど考えていなかった。

しかも人質を取られたような形で避けられない。

ジェマはアンヌもこの3年でかわいくなっていたのだ。


練習を見た限り、無様な試合はしないだろう。

ラルフィード様の見た目をした男が勇猛な試合をし、美しい女性と婚約する…。


なんじゃそら!

聖典の一文か!


ラルフを応援する気持ちはとてもある。

とてもあるのだか、終わってからラルフに集まる虫どもの駆除を考えると気が重い。


その虫の中でもとびきりの大物、剣術バカの虫を退治するために今から魔力を練り始めるのであった。


こちらの感想は当然、ぶち殺してやる!シャルル!である。

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