第50話 1日の流れ 剣術編


次の日から剣の修行が始まった。

朝4時からだ。

午前4時を朝とするかは人によって分かれるところだが、僕はそんなに苦ではなかった。

苦ではないだけだが元気な方だろうが、ルーベンスさんは僕の8倍元気だった。

いつも2時くらいに寝ているはずなのに…。


「朝は涼しくていいですね。

さ、走りましょうか。

身体をほぐす程度でいいです。

持久力と瞬発力、剣は後者が特に必要です。

持久力もあればある程いいですが、完全な両立は難しいと考えます。

使う筋肉が違うのでね。


なので練習のための持久力と言っていいです。

剣を持って走り出して下さいね。

たまに打ち込むので、防いでください。

形は今は結構です。

好きなように防いでください。」


カツカツと剣を防ぎながら走り出す。

マラソンみたいにグルグル回るわけじゃないみたいだ。

ある程度の広さの中で自分に有利な場所を取り続ける練習に感じる。

フットワークの練習も兼務しているようだ。


…ルーベンスさんに方向を誘導されている感じがするな。

正解を誘導して覚え込ませてるのか、反応を見ているのか気になるな。

そこで僕は拳術の技で身体を入れ替えてみた。

一度もらっておいて良かった能力だ。

バカみたいな反応速度やハンドスピードはなくなっているが、体捌きは身体の記憶から完全に消えるわけではないようだ。

知能が上がった時に覚えた言語を完全には忘れてないことと同じなのだろう。


4分の3歩分だけ踏み込みを短くし、そのあまりの力で左右の体勢をスイッチして、ルーベンスさんの振り切った剣の方に抜けると、ルーベンスさんは少し笑い、少しだけ剣の速さが増した。

どうやら正解だったようで、難易度アップというところだろう。


急に速くなったので、頬に剣が掠って少し血が出た。

自分が流させるのはいいのに、シャルルさんがやるとキレるのか…。


少し上手くやれると、少し難しくなる、それをしばらく繰り返して、朝の練習は終わった。


「剣はやっぱり楽しいですね。

では朝の練習を終わりましょう。

筋肉に治療の聖魔法は使わないで下さい。

しかし、骨には必ずかけておいて下さいね。

背が伸びなくなってしまうらしいので。」


骨端の軟骨の破損だね。

それについては僕の方が詳しいだろう。

骨膜も丈夫になるので、処置が必要な関節を診察の魔法で探してそこを治療しよう。


そこから、ルーベンスさんに型を一つ教えてもらい、その日の夕方までの宿題となる。


そこから僕の生活のリズムは大きく変わった。


魔法の勉強は変わらないが、家の手伝いは、3時頃のお供え以外はなくなり、夕方からの座学の時間も、本や教科書を渡されて今までより長い時間をかけて空いた時間に剣の型と座学の勉強を進めいくように変わった。


ララさんの負担が減ったことも要因だ。

僕が剣術を始めてから、ララさんはララさんで召喚の習得を早め、あっさりと鳥と犬を召喚することに成功した。

彼らがお手伝いをしてくれるから僕の仕事もなくなり、ティナの淑女教育に家事も追加されたため、僕が手を出せることがなくなったのだ。


そうして夕方からの座学の時間はそのまま剣術となり、その時間にはルーベンスさんだけでなく、ララさんとブランドさんも来て教わることが多くなっていった。


夕方は朝に教わった型をルーベンスさんに見てもらい、直すところは直し、それ以外の時間はほぼ模擬戦となる。


普通にやれば、僕は誰にも勝てないのだが、それぞれ3人とも課題を与えるように立ち会ってくれており、例えばルーベンスさんは朝の型を理解していれば防ぎながら返すことの出来るようにしてくれていたり、ブランドさんは流れの中でわざと隙を作り攻撃を当てさせてくれたりしていた。


ララさんは流派が違うようで、突きが主体の剣だった。

間合いからの出入りが速く、相手の無力化を目的としているので、容赦なく手や足を狙ってくる。

戦場剣技はアドレナリンが出て少しの怪我なら動けてしまうことや、怪我程度ではその後魔法で回復して再参戦してくるので、重症もしくは殺害を目的にしているらしいが、ララさんは筋力量で劣る女性や貴族が納めることの多い、護身術のような一対一に特化した流派らしい。


そして驚いたのは硬い剣を使っているのに寸止めがなく、きちんと振り切ることだ。

魔法で回復させられる世界なので怪我程度ではやはり問題視されないらしい。


たまにブランドさんと一緒にアンヌが来て、アンヌが剣、ティナが魔法を使いながら1対2で練習したりもする。

アンヌは僕より少し歳上くらいの子供なので大人3人ほどの練度はないが基本に忠実に攻めてくる。

そのアンヌの隙を突こうとすると、ティナが魔法を放ってくるし、大人より容赦なく攻撃してくるので、始めた頃はこの組み合わせが一番怪我が多かった。

しばらくして僕が剣を振りながら魔法を飛ばせるようになったころに、安定して戦えるようになった。

本当にたまにカルさんも来て、教えてくれていた。

カルさんはカルさんで、ブランドさんに教わりたかったとのことだったのだ。

なのでカルさんは兄弟子のような形になっていた。


そんな模擬戦が終わるとみんなで夕飯を取り、1日を振り返りながらその日によって違うが、石碑や祭壇で父さんと一緒に長めに祈りってから、一人でまた剣を振って、汗を流して眠る。


そんな生活が3年程続いて、僕は11歳となった。


なぜそんな生活が3年も続いたかといえば、シャルルさんが諦めていなさすぎたからだ。


3年経ってもなお、だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る