第49話 なにものにも勝る
「頭が冷えたなら、ラルフの話を聞いて。」
僕は、もう一度訓練の説明をした。
手がボロボロなのは、自分で選んだことで、痛くないとどこが悪いか分からないからそのままにしているので、問題がないこと、剣が楽しかったことを。
養子に来いと言われたことと、逃げ帰ったこと、隠れていたのと祈っていたので遅くなったことは言わないことにした。
2度目の怒りは止められない気がしたからだ。
「そうか、楽しかったのならよかった。
しかし…あんまり遅くなるなよ?
心配はするんだから。」
それは、はい。
ごめんなさい。
「手もわかったし私も剣士だったから理解できる部分もあるからうるさく言わないけど、変な感じがしたら必ず言うのよ、ラルフちゃん。」
それも、はい。
ごめんなさい。
「ラルフ、ちょっと手を見せてください。
この手は1日で…?
…親父、変なこと言いませんでした?
養子になれとか。」
ヒッ…。
空気がピリッとしてる…!
言われました。
言われちゃいました。
「やはり剣術馬鹿を襲撃しよう。」
断ったから!
断ったから落ち着いて!
「兄貴、この手見てよ。
…ね?
よく逃げられたね、ラルフ。」
「うん。
一振りごとに成長を感じられるいい傷跡だな。
…どうやって逃げ切ったんだ?
ラルフ。」
手でそこまでわかるのか…!
聞けば、現役の聖騎士団長時代から、その辺の子供に剣術を教えるは毎日の事らしく、気に入った子供や素質のある子供を捕まえては兵舎のエリートコースへぶち込み続けてるらしかった。
その中には、やはり学園の子供も混じっており生徒の食い合いや、文官に育てたかった親からの苦情が学園に行き、お爺さん二人がバチバチにやりあって来た歴史があるらしい。
ルーベンスさんとブランドさんは実の兄弟ではなく、ブランドさんはシャルルさんの実子、ルーベンスさんは捕獲された直弟子で当時仲が良かったので兄貴と呼んでいるとのことだった。
「剣術も大概やったんですけどね。
戦争で元の実家が亡くなりそうになって、戻ってから文官仕事をやりだしたんですよ。
まだ成人じゃなくて継ぐかどうか分からない微妙な時期に、結局家はなくなり、先生の元で働くことになったんですよ。」
はえー…
歴史あり、だね。
「ルーベンスの時は何日くらい追われたっけかな。
3日くらいか。
それで家族が根負けして修行に出したんだよな。
…あの頃のお前、初日にここまでやれたか?」
「そんなわけないでしょ。
…ラルフ、どうやって逃げたか詳しく教えてもらっていいですか?」
「えーと…
シャシャシャシャって笑いながら手を繋ごうとしてきたから、身体を半分引いて、手をこう、シュッてたしたら顎に偶然当たって、シャルルさんが気絶した。」
二人が絶句している。
なんだ?
何がおかしいんだ?
ちょっと待っててください、と言いルーベンスさんが屋敷の庭の隅から剣を持って来た。
「ちょっと今日教わった通りに振って頂けますか?
あ、木剣を選んだんですね。
浪漫派だ。」
振ってと言われてもな…。
一つしか習ってないし…。
フッ
こう!
で
フッ
こう!
お?
ちょっと良かったな。
今日のことだからまだ身体が覚えるや。
でも最後の方もっと良かったよな…。
こう!でこう!
んー。
こう!で、あぁ、そうだ。
ここでぐっとしてこう!
これこれ!
どう?
いい感じ?
「…兄貴、アンヌは何歳だ。」
え?
どうだったの…?
「11歳だ。
今年12になる…。」
アンヌはそのくらいの歳なのね。
で、どうだったの?
よく振れてた?
「ラルフはもうすぐ8歳だ。
…ジジイには4歳差なんて関係ないだろうな。
ラルフ、今日から塀の外にはしばらく出ないでください。
外から呼ぶ声がしても答えてはいけません。
その声に応えると大変なことになります。」
えぇ…
怪談みたいだな…。
なんでさ!
カルさんに剣術習いに行こうと思ってたのに。
「剣は僕が教えます。
いいですか?
ジジイは諦めません。
確信できます。
僕程度の才能で3日です。
ラルフのことは絶対に諦めません。
先生!ラルフはこの家の子ですね?
僕らで守らなければなりませんよ。
少なくとも1ヶ月はジジイに会わせてはいけません。」
「サシュマジュク様、でいいんだよな?
サシュマジュク様、うちの子供大好きジジイが普段からアンヌを溺愛しているのは想像つきますね?
普段から口癖のように言っていることがあります。
『私を倒すような才能のある剣士がアンヌと結婚して、ひ孫を抱くのが私の夢だ。シャシャシャシャ』
とね。
妄言とかじゃなくて、マジの目をして言うんです。
わかりましたね?
ラルフ君は冷静じゃなかったとはいえジジイを倒したし、剣の才能は、ある。
ラルフ君をジジイの目の届くところへ出してはダメです。
捕獲して、アンヌと会わせて、ちょっとでも嫌そうじゃなければ、婚約させられます。
あのクソジジイは権力もあるし、行動が早い。
軍にも聖騎士団にも貴族にも慕うものが山ほどいるんです。
逃げられません。
…私はヤツと同じ家に住んでいるので、アンヌを隠すことは出来ません。
出来ないのです…!」
ブランドさんの奥歯がギリギリ鳴っている。
そんなに僕は嫌?
なんてね、そういうことじゃないよね。
そうか…あのシャルルさんから逃げ切るのは大変そうだな…。
「ラルフ、明日から剣術を真剣に教えるから、真剣に身につけて下さい。
ジジイが襲って来た時、捕獲されるまでの時間を稼ぐのです。
屋敷で数分凌げれば、僕か、ララさんか、先生が駆け付けます。
まずはそこを目指しましょう!
楽しくなって来ましたね!
なぁ!兄貴!ララさん!」
「そうですね、私も教えましょう。
鍛え直すいい機会ですし、力はともかく速さには自信がありますので、いい練習になると思いますよ。
うちには先生とシーさんとラルフ君自身も聖属性魔法を使えるので、練習し放題です。」
「おう!
俺も非番を作っておしえにくるからな!
シャシャシャシャ!
聖属性も使えるのか?
ならいくらでも修行出来るじゃないか!
なぁ!ルーベンス!」
…血だ。
血脈を感じるよ。
ララさんももしかして同門?
でもそうだね!
まずは、シャルルさんの捕獲をしのぐことを目標にしよう!
やる気が出て来たぞ!
なんかやる気を出す4人をちょっと遠くから見ていたシーとティナは、
「シャルルさんをしのげる子供にするって、強い子大好きお爺さんには逆効果なのでは?」
と思ったが言わなかった。
横でやる気を出した子供のなにかがジェマの心に触れたのか、家族の団結感に流されたのか分からないが、大泣きしながら頷いているからだ。
もうなんかいつもいつも、剣士って皆んな最終的に鍛えて解決みたいなこと言い出すのだ。
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