閑話 何故ラルフは生き返っているのか
「貴方は加護をあげないの?
気に入っているでしょ、ラルフちゃんのこと。
私は気に入っていると言うより、ティナの事での感謝の方が強いけど、貴方は友達みたいに接しているじゃない。」
「もちろんですよ。
ラルフとは仲良くしていますし、実は一番最初に考えたのは私の加護なんですよ。
この世界に彼が生まれ落ちた時にね。
…でも、私の加護は強すぎてね。
生き残る加護を得ることは間違いなく出来たでしょうが、苦難をも呼び寄せるのが加護です。
強すぎる加護は幸せとは限りません。
タナくらいの神格なら程よく幸せに程よくスリリングになるでしょう。」
「そういうものなのね。
ん?でもラルフちゃんってなんで死なないの?
貴方の加護だと思っていたんだけど違うのね。いや、実際は死んでいるけど、すぐに生き返しちゃってるじゃない。
ずっと死なないの?」
「今の所はそうなんですよ。
能力の結果とか不慮の事故で死ぬと、ここを経由して生き返るようになっちゃったんですよね。」
「なっちゃったんですよね、って蘇生はそんな簡単なものじゃ無いって貴方が言ったんじゃない。
もしかして貴方が生き返してる訳じゃないの?」
「そうなんですよねぇ。
…タナは個を、魂を確定するものってなんだと思います?」
「…名前かしらね。」
「それもありますね。
では名前のない孤児は個ではないのですか?」
「そうかもしれない。
人間って種族の野生の動物というくくりに入ると思うわ。
…でも本人は自分が自分だと認識しているのだからそうでもないのかしら。
んー。
難しいわね。」
「では一つ一つ剥がしていきましょう。
まずアイデンティティ、自己証明の一つ、心、魂。それがなくても個人と言えますね。
死体を見て、ただの肉になったではなくて、あの人の死体、と思う人が多いでしょう。
次、身体がない状態。
これは貴方が経験しましたね。
問題なく個人として認められていました。
次、貴女が言った名前。
この場合、特定の名称としておきましょうか。
これも問題なく個人と認められるでしょう。
自分で自分を認識できるし、他人が見つけて後から名前がつけば一緒です。
そして最後に役割。
役割がなくとも、これも名前同様、後で与えられるものです。
それで、ここからです。
この内二つが欠けると個人とは認識されなくなります。
名前と役割だけあっても架空の存在ですよね。
身体と役割だけあっても、ただの素材、人形だ。
さて、心と役割あった場合。
それはどうなると思いますか?」
「感情と何をするかだけ…。
現象よね、それは。
感情という現象が起こるだけ。
火とか風とかと同じようなものになるのね。
一つの火とか一杯の水みたいに数えはするけど、あるものってだけね。」
「そう、現象。
現象に私は身体と名前を与えてしまったんですね。
出来ちゃうので、神なので。
さて、現象に身体と名前を与えられたもの、それを人はなんと呼びますか?」
「神ね。」
「そうなんですよねー。
やっちゃいましたね。
ラルフは、記憶があり、再生した後に身体と名前があたえられ、現世に送られました。
最初に来た時に数秒で死んで可哀想だと思って復活させたのが失敗でしたね。
彼は記憶をそのままに、身体が再生して名を受け継ぎ現世に帰る人間、という現象なのです。
途中、不幸なんて運命まかせな能力を与えてなんとかならないかと思ったんですけど、ダメでしたね。」
「じゃあラルフは神の1柱なの?」
「いいえ。
私が毎回毎回きちんと人としての能力を与えているので、人間ですよ。
力加減の調整が出来ないので、彼は困ってますけど、絶対に必要なのです。
能力、言い換えると役割です。
人間という役割を毎回彼に与えている結果、彼はギリギリ人間として現世にいられます。」
「それは…やっちゃいましたね。」
「やっちゃいました。」
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