第45話 明日へとエスケープ


そういえば思い出したよ。

前世で反復練習大好きだった事を。

ちっちゃい時は野球部で、一人でできる壁当てと素振りを延々とやっていた。

それこそ今回みたいに、血が滲むほどってやつだ。

そのうち怪我をして続けられなくなると暇になり、勉強を始めた。

2時間勉強をしたら500円もらえるルールがあったっけな。

それも月5万円に達する頃廃止されたけど、お陰で医者になるくらいの進学校へ行った。


つまり何が言いたいか。

神様が剣術の才能をくれたわけじゃなさそうってことだ。

これは元々の性質で、更に剣が性に合っただけだ。

やばいな、迷子だ。

もしかして、忘れてた?

蘇生のどさくさに頼んだだけだしなぁ。

でも、今となってはそれで良かった気がする。

変に能力もらっていたら楽しさが分からなかったからね。


「よく学びましたね。

ラルフ。

私の養子になりませんか?

剣を共に極めましょう!


楽しいですよ!

剣は!

ね!」


おじいちゃん先生が急に大きな声を出してきた。

歯茎が剥き出しなほどの笑顔だ。

何が、何が起こったのか。


「やばいな…逃げろラルフ!

俺が説得しておくから!

早く、走れ!


振り返るなよ!


師匠!ダメですって!

そんなことばっかりやってるからサシュマジュク様と仲悪いんでしょ!


教え魔の二人なんだから仲良くやればいいのに、生徒取り合って!


ラルフ!ぼーっとすんな!

この国最強の剣士と魔法使いの決闘を起こさせるな!

行け!」


今まで見た中で一番必死なカルさんを置いて僕は家路へと走り出した。

なんだこの世界。

お爺さんが病的に子供好き過ぎる。


「お?終わったか坊主。

走って出てきたってことは師匠に気に入られたな?

ははは。

…お前たしかサシュマジュク様の孫なんだよな…。

笑い事じゃねぇわ。

隊長が食い止めてんのか?

そうか、早く帰れ。


本当に早くした方がいい。」


なんなんだ。


兵舎の奥でバコンという音が鳴り、カルさんが吹っ飛んできた。


「逃げろ!

気に入っちまった!」


ホラーじゃないか。


シャルルさんが低い姿勢で走ってくる。


「ラルフ!

待ってください。

一緒にクソ魔法馬鹿を殺して剣の道を邁進しましょう!

アイツめ!

こんないい生徒隠していやがったか!

今日こそ首を切り落としてやるわ!

シャシャシャシャ!」


こっわ…。

悪魔の笑い方じゃないか。


高速で走り寄ってくるシャルルさんが力強く、そして優しく腕を掴もうとしてくる。

矛盾しているようだが、そう感じるのだ。

怪我をさせることは無いと感覚で分かる。


僕はそれがゆっくり見えた。

身体を引き、左前の構えに切り替えて、掴もうとしている右手を避けながら、そのまま掌底を繰り出すと、シャルルさんの顎を的確に捉えた。


完全にカウンターのタイミングで入った攻撃は、シャルルさんの意識を一撃で刈り取っていった。


「ジジイめ。

剣聖なんて呼ばれる男も冷静さを失ったらこんなもんだ。

いい教訓になったな…。

さ…帰りな、ラルフ。

早く帰って寝て、今日のことをとっとと思い出にしちまえ。」


……?

………!


神様、これって剣術と拳術間違えてない?

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