第44話 楽しい、剣、楽しい


「では、初めに私が剣をゆっくりと振ります。

それを見て完全に同じ動きになる事を目指して、ラルフも振ってみて下さい。

行きます。」


左足を後ろにし立ち、フッと息を吐きながらシャルルさんは縦に剣を振り、もう一度フッと吐きながら左足で踏み込み、斜め下から切り上げた。

…これでゆっくりか。


素人ながら綺麗な動きに見える。

達人ってそういう者なのかな。

お父さんの魔法の所作も綺麗だもんな。


「さ、やってみてください。」


僕は同じように左足をさげ、息を吐きながら剣を縦に振った。

振りはいいような気がする。

神に剣術の能力を貰ったのだ。

剣が重い…。

あんなにピッと止まらない。

身体が耐えられてないな。

鍛えないと。


あ、なるほど剣が流れた時に左足が前にあると危ないのね。

ここから斜め上に…。

重い!

剣って重いな!

あ、足だ。

左足を前に出してないからだ。

左足と同時にだ。


フッ


振れた。

でもやっぱり身体が流れる。


全然だめだ!

神様、能力マイルドにしたのかな。

危ないもんな、あれ。


どっちでもいいか。

楽しい。

剣はかっこいいのだ。


…もう一度やってもいいですか…。


「もちろんです。

何度でも続けて下さい。

納得がいくか疑問ができたら答えます。

それまで自分で考えてください。」


フッ

…ダメだ。

下げた後に振り上げた剣の刃が斜めになってる。


フッ

なんでだ?

切り上げの時の左足がスムーズじゃない。


フッ

あ、そうか。

切り下げと切り上げの動きが繋がってないからスムーズじゃないのか。


フッ

そうそう。

腹筋がちぎれそうだけど、この方がいい。


フッ

もう少し力を抜いて切り下げよう。


フッ

力抜きすぎたか?


フッ…

フッ…


「師匠。

ラルフ才能ありますね。

楽しそうだし、一振りごとに成長してる。

いいなぁ、こーゆー時が一番楽しいよなぁ。」


フッ…

フッ…


「師匠?

なんで無視するんですか。

ね、ラルフ才能ありますよね?

…師匠?」


フッ…

フッ…


あ、今回は良かった。


フッ…

フッ…


全然だめだったな。

さっきのはマグレだ。


「師匠?

あー、やべーな。

忘れてたよ。

師匠、ダメですよ。

サシュマジュク様のお孫さんなんですからね。

聞いてます?」


フッ…

なんだ?

手が滑る。

なんだ、血か。

滲んできたのか。

ならいいか。



フッ…

あ、いまの!

今のはよかった!


チラッとシャルルさんを見ると一度頷いてくれた。


よしよし。

今の感じだ。


フッ…

くそ、手が滑るな。

小指をでっぱりに引っ掛けよう。


もう一度だ!

と剣を振った瞬間、カンと乾いた音がした。

剣の方に目を向けると、カルさんが剣を受け止めていた。


「あーあーあーあー。

もう。

手がズル向けじゃないの。

ここまでだラルフ。

初日からやりすぎだっての。

聖魔法使えるんだろ?

治しとけ。

な?


師匠も、止めて下さいよ。

7歳なんすよ、ラルフは。

ほう。

じゃないんですよ。」


あれ?

手から剣が離れない。


「ばっかお前やりすぎて手も開かねーじゃねぇか。

…ほら、ゆっくりにぎにぎしてろ、治るから。


初日にそこまでやんなよ危ないから。」


これ、治さなきゃまずいかな。

怪我したって知らないとどこが悪かったのかわからないし、魔法で治すと手も固くならないよね。


「うっわ。

おっさん世代の剣の道に生きる変態みたいな事言うなよ。

…師匠も頷いてんじゃないよ!

え?

俺がおかしい?

うっそ。

もう一人呼んできていい?

あんたらがおかしいから。

みんなそう言うから!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る