第43話 剣を習いに


マジごめんララさん。

癒しにサウナでも作ろうかな…。

火、水、風の組み合わせでどうにでもなりそうだし…。

だめだめ、おじさん方が憩うだけで、掃除はララさんがするのだろう。

また仕事を増やすだけだ。


何もできない僕を許してください。


屋敷を出て道すがら、僕はそんなことを考えていた。

ついにララさん負担軽減案は実らず、兵舎へと着いてしまった。


「おー坊主、どうした?

なんか用か?

泥棒があったとかの窓口はあっちのおねーちゃんがいる方だぜ。」


警察的な役割も兼ねているのか。

でも今日は違うんだ。


「カルさんに剣術を習いに来たんだ。」


「カルサン?あぁ!隊長か!

ちょっと待ってな。

すぐ呼んでくるから。」


戻って来た兵士は何故だか少し元気がなくなっており、練兵場にいるからと、通してくれた。

…何があったんだ?


カルさんが待つらしい練兵場まで人に聞きながら向かう。

案内してくれても良いのに…。

…なんか練兵場に近づくほど空気がピリついている。

知っているぞ、この空気は。

空気の読める日本人だったのだ。

これは電車に変な人が乗って来た時か、あまり来ない偉い人が会社に来ている時の空気だ!


ピリ重い空気の中練兵場へと辿り着くと、カルさんが手を振っていた。

「おー、ラルフ、こっち来い!

師匠を連れて来たからよ!」


その人だよ、カルさん。

あなたの職場のこの雰囲気の原因は。

筋肉がすごいわけでも、でかいわけでもないのにすごい威圧感がある。

逆になんでカルさんは普通なんだ。


「初めまして、シャルルと申します。

本日はよろしくお願いいたします。」


丁寧だ…!

ひっくい声で丁寧だ…。

それがみんなを怯えさせているんだ…。


「初めまして、ラルフと申します。

本日はご指導よろしくお願いいたします。」


あっぶねー

御鞭撻とか言うところだった。

7歳児が。

…シャルルさんか。

この人とんでもなく偉い人だな。

もうわかる。

花に名前がある人だ。


「ラッキーだったな、ラルフ。

師匠は先代の聖騎士団長なんだぜ!

指導なんてそうそう受けられないんだから!」


ウキウキしてんな、この人。

初めて会った時はもう少し優しく話しかけてくれたのに。

…あー、あれだ。

剣士にはシャルルさんは憧れで緊張はあるけど怖くはないんだ。

逆にお父さんは魔法使いには憧れではあるけど、剣士には怖い人なんだろう。


お父さんは関連会社の社長か。

ボンボンムーブしてやろうか?

あ?


「初めての剣術なんだ。

良い人に教わっとけ。

財産になるぞ。」


なんだ優しいじゃない。

ボンボンムーブはしません。

よろしくお願いします。


「ふむ。

では、始めます。

ラルフ、これを使いなさい。

どちらを使う?」


重さが同じくらいの木剣と鉄剣だ。

これはどちらでも良いの?


僕は木剣を選んだ。

鉄剣は自分を傷つける恐れがあると思ったからだ。

まだ早いと思ったのだ。


「そうですか、ラルフは浪漫派ですね。

ふふ。

サシュマジュクの孫でしたね。

魔力を放つのにも向いているのでしょう。」


ん?

浪漫派?

剣の素材によって方向性が違うの?


むしろ慎重派だから木にしたんだけど…。


「いや師匠、今日が剣に触るの初めてなんだって、特性とかなんもわからないよなぁ?ラルフ。

ライバルの孫だからってウキウキしすぎな…」


速ぇー

調子に乗りかけたカルさんをぶん殴る手が見えなかった!

でも、そうなんです。

初めてなので何にもわからないんですよ。


「そうでしたか。

ならば説明いたしましょう。

最近は幼年部に教える事が多かったので失念していましたよ。


鉄の剣は魔法を纏わせるのが苦手なもの、もしくは継戦能力、戦い続ける力を重視する者が使います。

金属は魔法を放ちにくいですが、留めやすいので。

逆に木剣は魔法を放ちやすいので、魔法剣なんかに使ったり、剣撃を飛ばしたりしやすいです。

扱いとしては鋭い杖といって差し支えないかもしれません。

しかし、せっかく留めて硬くした剣の魔力を消費してしまうので、込めなおさないと剣としては扱えなくなります。

その欠点があっても、金属より圧倒的に一撃が強い、よって浪漫派と称したのです。

両方の間のような特性の魔物の骨なんかで作られた剣もありますが、加工しにくく高価なのでここでは扱いません。」


なるほど。

ファンタジーで剣が使われる理由がちょっとわかったぞ。

剣は単一素材で、その素材量が多いんだ。

魔法を込めるに決まってるよなー。

あるんだから。

もしかして槍とかの他の扱い易い武器を使わないのは複合素材だからか。

持ち手が木で穂先が金属だとどうなるんだ…?


「…先の金属部分か木の部分だけにしか魔力を込められない事が多いですね。

特性を考えれば、持ち手が金属で穂先が木だと魔法武器としては扱い易いのでしょうが、そうなると剣の重さを遥かに超えてしまうので。


せっかくの片手武器で足を使える利点を消してしまいますね。

それでも使う方は居ますが。


ラルフは何故剣を選んだのですか?

てっきり魔法と併用しやすい武器という事で選んだと思っていたのですが…。」


「カルさんが剣が一番かっこいいって…。」


シャルルさんは片眉を上げ、ため息を吐きながらカルさんを見た。


カルさんは笑顔で親指をあげていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る