剣と魔法と聖女とジジイ

第42話 仕事復帰とティナのいる生活


お父さんが仕事に復帰した。

対外的には、国外に行かなくてはならなくなったサシュマジュクの代わりに、息子のジェマが教壇にたち、学園の長の代理をすることとなった。


どうしてもサシュマジュクの存在が必要な場合はシーさんが幻術を掛けてお爺さんにする事で対応しようか、と思っていたが、別の方法で解決した。

ティナは死属性魔法の才能がある、というか使いこなして来た期間が長いので当然のように使える。

聖属性が元に戻す、に主軸を置いた魔法であるとすると、死属性は先に進める魔法だ。

ゴミなんかに掛けてチリにしたり、ワインをヴィンテージにしたりしているティナを見てお願いしてみるとお爺さん化が上手く行ったのだ。


お父さんが若返った時は雑な神様のせいで固定化されてしまったが、普通は時間が経てば元に戻る。

同一人物なので見た目の問題など起きるはずもなく、むしろ若返った事で教壇に立つ機会が増えてウキウキしている。


お姉ちゃん、死属性って便利なのになんで廃れちゃったのさ。


「ゴミは風魔法でもチリに出来ちゃうし、物の時間を進めるだけなんて大した使い道なんてないのよ!

ラルフに言われるまでワインに使ったら腐っちゃうと思ってたし、好き好んでお爺ちゃんになりたい人なんていないし、おまけに霊の声は聴こえるし、ハズレよ!この魔法!


そもそも、死ってなに?ちゃんとわかる?

それが一番難しかったんだと思うよ。」


たしかに。

僕は死にまくってるし、始めに死んでからここへ来た。

ティナは生まれた時から死んでいた。

親和性が高いのか、僕らは。


それよりさ、気になっているんだけど、ティナもララさんの仕事手伝ってよ。

この広い敷地を掃除するのなんて大変なんだから。


「手伝っているじゃない!

ゴミをチリにしてるもん。」


ここの家の人たちは基本的に忙しい。

お父さんは仕事があるし、シーさんも研究をずっとしている。

ぺぺさんは7人分の料理を一人で作っているし、食材の買い出しや、洗い物も一人だ。

基本的に台所にいる。

ルーベンスさんは会計と家宰で忙しすぎて、いつ寝てるのかわからない。

つまり家の他のことは全部ララさんがやっている。

本当はキリの良いところでやめたり、そんな風に出来るはずなのだが、ずっと自分の事をやってる人が多い。

ララさんが居ないとダメな大人たちの生活がままならなさすぎる予感がしているのだ。


今までは僕が手伝っていたけどさ、明後日からそうもいかないんだ。

午前中のうちに剣術を習いに外に行くんだから。


「あらそうなのね。

ならララちゃん、また大変になっちゃうわ!

そーね。

実は私も学園に通うの、ほら魔力の量が普通の人より大分多いけど、不便な属性しか使えないからちゃんと学びに行くのよ。

どうしましょう。

ララちゃん倒れちゃうわ。」


帰って来てからはなるべく手伝おう。

いやぁ、しかしなぁ…。

僕も前世はルーベンスさんみたいな生活をしていた。

死ぬほど働いて死んだのだ。

性根がワーカホリックなのだ。

直ぐに自分のことで手一杯になる事が予想される。


お父さんに相談しようか。

僕ら家族はみんなその辺ダメそうだから、お手伝いさんをいれたり方法はあるはずなんだ。


ティナはティナで死んでから生き返るまでずっと鎮魂をし続けたわけで、今も死属性魔法の研究を子供ながらに初めて、寝食をギリ忘れてない程度だ。

お父さんの娘だよ、本当に。


そうして、夕飯のあとに僕とティナはお父さんの元へ相談に行った。


「ララが大変そう?

…そうなのか。

気が付かなかったな…。

よし!これからは自分のことはある程度自分でやるように頑張るか!」


「無理でしょ。」

「無理よ。」


破綻するのがわかりきってる計画なんて認めるわけにはいかないのですよ。


「あ、ならば、ララに召喚を覚えてもらうか。

お手伝い妖精と契約したらいい。

人のお手伝いが好きな妖精がいてな、家事を食事と魔力で手伝ってくれるのだ。」


そんなのいるのね。


「パパが出せないの?」


「出せるけどもパパが出したらララの手伝いをしてくれるとは限らないからな。

召喚獣は喚んだ本人しか信用しないのだ。

人間もそうだろ?

こっちで働き始めたのに、明日からあっちに行ってくれなんて不満があるだろう。」


そりゃそうだ。


「じゃあ明日から寝る前にララに召喚を教えようかな。

ララは魔力が少なめだからまずは魔力を増やす特訓からだ。

よし、今日からやるか。

じゃあ父さんはララに話してくるな。」


スタスタと早足で部屋を出ていく父を目にした僕らは、おそらく同じことを思った。


ララさん、やること増やしちゃってごめん、と。

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