第39話 ゴリ押し予定の紹介


生き返った僕は、繋いだ左手を見た。


「やぁ、ティナ。」


「ごきげんよう、ラルフ。」


ふふ、と笑い手を繋いだまま広間へ向かった。


「どうした、ラルフ…。

…その子は…?

友達が出来たのか…?」


ティナだ。

この子はティナ。


「そうか…。

お前は…神の使いかなにかか?」


違うよ。

今までのお父さんの行いを神様が見ていただけだ。


「おぉ…。」


シーさんだけは、泣き崩れたお父さんの様子を理解していた。


「ラルフ、それは理を超えている。

何があったか多分理解できないけど、一応説明して。」


石碑に1000体もの亡者が囚われていた事。

それをエマとティナが慰め続けていた事。

僕はそれに気がついて毎晩祈り続けた事。


そんなような説明をした。


偶然僕が神様に近く、直接話せたから起きた奇跡ではあるが、これは大切な事だ。

あの神様は雑だが優しい。

報われる理由がなければここまでしてはくれなかっただろう。


そしてお父さんの神性が失われた事に気がついた。

死後のご褒美の前借りもある様だ。

文句は言われないだろう。

きっと。


この世に生まれて来られなかった上に輪廻から外れたティナを神様が哀れに思った事。

エマがティナのことを憂いて神の力を持つ悪霊になりかけていた事。

お父さんが長年の信仰で神様に認められていた事。

その認められた事実を全て使って、哀れな娘を救う事。


これらが合わさって僕を通じてティナを甦らせてくれた事。


これが説明の全てだ。

神様の心情については僕の推測だが、そんなに遠くない気がしている。


ごめんね、お父さん。

せっかく神様に認められていたのに勝手になかった事にして。


「…いや…。

いいんだ…。

これ以上望む事なんてないのだから。」


「私、今までずっと見ていたんだから!

お父さんが人のことばっかりやって大変な目に遭ってるのとか、ララさんが毎日毎日家族のために働いているのも。

シーちゃんもぺぺさんも、ルーベンスさんもそうよ。

皆、優しくて…。

全部見てたんだから。」


ティナが大泣きしている。


そうだね。

そうなんだね。


ティナは僕のお姉ちゃんだ。

ここに来た時からそうだったんだ。

だから、一緒にいちゃダメかな?

そんなの変かな。


僕もなんだか泣きそうだ。

ティナのこれまでを知っているし、エマの思いも知っているから。


…そして、生まれなかった子どもの肖像をずっと飾っているお父さんを知っているから。


「あばばばばばばば」


ティナはもうダメだ。

なんとか、僕が説得しないと…。


「え?

この子は先生の娘なのか?

えー!

いたんだ娘!

ちょっと似てるか?

いやー、どうだ?

こんな怖い顔にはならねーだろ。

お母さん似なんだな。」


ぺぺさんはなんかズレてるよ。


「捏造する書類が一枚増えるだけですよ。

どうせ先生はサシュマジュクの息子として生きていかなきゃいけないんですから、孫が増えたって別にどうって事はないです。」


ルーベンスさんは…なんか慣れてるね。


「あたしは、エマさんも知ってるし、どんな奇跡が起こったって二人が一緒にいる所を見たかった。

だから、変じゃないよ。

先生の周りで起こることにいちいち説明つくなんて思ってないし。」


シーさん…。

お父さん本当に今まで何して来たのさ。


「あら、どうしよう。

先生の部屋なくなっちゃうわ。

とりあえず先生はソファで寝てね。

子供を変なところで寝かせる訳にはいかないし。

おじさん臭そうだからシーツとか替えなくっちゃね。

ティナちゃん初めまして、私はララ。

飴ちゃん食べる?」


ひどいなララさん。


この人ら、なんかあんまり気にしないのね。

みんな揃って。


「私は臭くない。

娘の前でやめてくれ。


明日皆で物置を片付けよう。

中のものは倉庫でも建ててそこに入れておけばいい。」


この人面倒事背負い続けて来たんだろうな。

なんか皆僕を含めて変な出来事に慣れすぎてる。


まぁいいかお腹空いたな。


夕飯にしようよ。


「パイ!パイ食べたい!」


あれは3時頃に食べるものなんですよ。

もう夜のご飯の時間なんですよ。


「じゃあ今日だけお祝いで焼くかぁ。

急がなきゃいけないから先に台所いくわ。

ララ、シーツ替え終わったら手伝ってくれ。」


「シーツは替えなくてもいいぞ!

臭くないから!

さぁ二人とも座りなさい。

話を聞かせてくれ、ラルフとティナとエマの話を。」

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