第38話 新たな神


「また無茶をしますね、貴方は。

あーあーどうするんですかこんなに連れて来て。」


神様の前には僕と大量の亡者の粒がある。


いやぁちょっとそこまでは考えてなかったね。

エマちゃんを変な因縁から解き放つ事くらいしか考えてなかったから。


「なに笑ってるんですか。

まぁいいですよ。

救いは神様の仕事ですからね。

たーんと働きますよ。

1000人分ね。

そういばお供えされたパイは美味しかったなー。

2切れくれたらいつもの倍頑張れるんですけどねぇ。」


ダメだよ。


僕の分をあげてもいいけど、家族で食べるからいいんだよ。

誰かが食べないと心配するじゃないか。

僕だけは貴方を家族だと思っているから許してよ。


「はぁ…。

いいでしょう。

さ、速やかに生き返りましょ。

次の能力は何にします?」


ちょっとまってね。

やる事が残っているんだ。


「エマさん、いるんでしょ?」


「いるわよ。

かーっ!

やられたわ。

死ぬのが怖いとか怖くないとかじゃないじゃない貴方。

反則よ、神様味方につけて。」


ごめんごめん。

でもこれしかなかったんだ。

これからやる事はここの亡者を巻き込む訳にはいかなかったし、二人まとめてって訳にはいかない様な気がしてさ。


「エマさん。

タナの本当の名前を教えてよ。」


「…ティナよ。

先生と二人で決めたの。」


そうか。

ティナね。

いい名前だ。


「さ、神様。

生き返らせてくれ、と言いたいところだけど、ここで能力を使っていく。

多分それで死ぬだろうからここのままでいい。

無から有を生み出すと大変な事になるんでしょ?」


次の能力は、蘇生だ。


「はぁ…。

ある事はわかっていたのですね。」


そりゃそうさ、僕が蘇生しているんだから。

他ならぬ神の能力で。


「ごめんな、エマさん。

一人しか無理なんだ。

そもそものルールを捻じ曲げてる様なもんだしね。

でも…ティナは生き返る。

それで許してよ。」


彼女はコクコクと無言で頷く。


「本当にいいのですね?

これから貴方にだって大切な人が出来て、その子供が出来て、大切なものが増えてゆくのです。

その時何があったとしてもこの能力は使えないのですよ。」


わかってるよ。

後悔しないように頑張るさ。


「次の次の能力は剣術にしようかな。

守る力、今のうちからつけとかないとね。


あ、エマさん、死の神ってのはね、僕のいたところじゃ平等な安らぎを与えるってそんな意味もあったんだ。

女の人が物騒な神様になんてならないでさ、安らぎの神様になってよ。

眠れない夜なんかには、エマさんに祈るよ。」


さぁ始めよう。

お姉ちゃんを、ティナを生き返らせよう。


生き返らせたあとは…。

どうしよう。

ゴリ押すか。

子供に甘いんだ、僕の家族は。


僕の中で何かが芽生えたと同時に僕の身体が歪んでゆく。


「蘇生と簡単に言いますが、人の命は人の命でしか支払えません。

痛く、苦しいのは覚悟していたでしょう。

さ、頑張ってくださいね。」


ぼきぼきと骨の折れる音がする。

肉がちぎれ、脳が潰れていく。


神の前に赤い球が浮いている。

赤が圧縮されまるで宝石のようだ。


「悍ましいわね。

これが死の塊って言うならこの子の言う通り私は死の神は無理ね。」


神はふふ、と短く笑うと神気を込めた。

右の手のひらを上に向けると塊が動き出し、少しずつ、少しずつ人の形を模っていく。


エマは神様の空いてる左手を掴んでいた。

少しか役に立てないかと思っての行動だった。


「エマ、貴方は神気を得てしまいました。

もう輪廻に戻る事はないです。

しかし、ラルフに安らぎの神様にされてしまいましたね。

ラルフはもう普通の人ではなくなったと言ってもいいです。

貴女と言う神様に信仰されてしまったのですから、人の精霊と言っていい状態です。

人の言葉でいうなら、勇者とでも言うのでしょうか。

卵が先か、の様にどちらが先かややこしい事になりましたが、事後ですしどうしようもないです。


…エマ、私と共に神としてやっていきましょう。」


エマは頷いた。

サシュマジュクに未練がないわけではない。

もちろん。


しかし母として満足してしまった。

生きる理由が無くなってしまった。


「…エマの名はもう使えないわね。

なんか、神様ってこんな感じなの。

貴方も大変ね。


私の名はタナ。

夜と安らぎの神、タナよ。」


私の勇者にわかりやすい様に、その名にした。

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