第37話 楔



家族は全員僕の心配をして屋敷にいる。

心配していることを悟られないように、僕から見えないところに。


今しかなかった。

夜ではなく昼にやるしかないのだ。


「あら、ぜーんぶわかってたのね。

タナがタナだけじゃないって。」


うん。

エマさんと…まだ名前が決まってない、その子が混ざり合ったもの、それがタナだ。


ジェマに近い名前にしようと思っていたの?

お父さんが若返っちゃって、仮名をジェマにしていたから。


「いいえ、ジェマって言うのはね、神職を辞して私と結婚しようとしていたのね。

サシュマジュクって言うのは神様に使える時に誓った名前だから辞めちゃうと名乗れなくなるのよ。

その時用に考えてた名前。

私ったら先生がそこまで考えてくれてたのに、死んじゃってねぇ。

申し訳ないったらありゃしない。

お腹にこの子もいたって言うのにさ!

うがー。」


なんて死人らしくないテンションなんだ。


「それで?

私ならどう思うってどう言う事?

そんな幽霊で空まで飛んで行きそうなほどくっつけて何しようとしてるのさ。」


「石碑の亡者を全部僕にくっつけたら、エマさんもあの子も神様なんてやらなくて良くなるんじゃないかと思ってさ、もうちょいでそれは出来そう。」


「貴方死んじゃうって、今ですらすっごい死属性魔法の才能があるからギリギリ引っ張られてないだけなんだからね?」


それについては考えがあるから大丈夫だよ。


「エマさんも、自分とお父さんの子供がこんなわけのわからない状況ってどうなのさ。

いいの?っていう意味のどう思う。だよ。」


「…この子は産まれてこられなかったの。

それで…

今、ちょっとずつ成長しているのよ!

産まれてこなくて、死んでるのに!

貴方は生きているからわかないだろうけど、こんな姿見られるなんて思ってなかったんだから!

貴方から見て何歳に見える?タナは。

最初はほんの塊だったのが、亡者って貴方は言うけれど、ここの人達に可愛がられてここまで大きくなったの!」


丁度9年前でしょ。

戦争が終わる年。

タナが言っていたからね。

タナは9歳くらいに見えるよ、元気で少しおしゃまなかわいい女の子だ。


でもな、子供を舐めてんじゃねぇよ。

結構わかるもんよ、子供は子供なりにな。


無邪気を強いるなよ。

子供に子供を強いるな。

親だろう、あんたは。


高く、長い悲鳴が響き渡った。

誰が聞いても悪霊の悲鳴だと答えるだろう。


そうだ。

タナにしがみついていた亡者達を引き剥がしてはっきりわかった。

タナを縛りつけてる一番の楔はエマだ。

母の愛がこの世で何より重いのだ。


「殺してやる!

この子はこれからも私が育てていくんだ!」


おぉ…!

ネイティブな殺してやる(オーウィー)を初めて聞いたね。


俺と来なよ。

タナに縋り付いてないでさ。

ほら、憎き子供と離そうとする敵だ。


俺に取り憑いてくれ。


楔が僕に移動した結果、石碑の亡者が全て僕の元に集まった。


1000人近い亡者に、子供のためにと半分神になった女の人。


…僕の仕事は後一つ。

僕は死の触媒を強く握り、魂を僕の魂に縛りつけた。


耐えられ無くなるって?

わかってるよ。

耐える気なんてないのさ。

これで皆まとめて強制成仏だ。


頼むよ神様。

悪い様にはしないでやってくれ。

目の前が白くなっていく。


それで、エマさん、この子の名前は当然決めていたんだろう?

ジェマって名前を前もって決めるほどの計画派なのさ、僕らのお父さんさんは。


教えてくれ、タナの本当の名前を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る