第34話 死の世界
夕食時にぺぺさんにネームプレートの件を快諾してもらい、安心した。
夕飯は何かの穀物をトマトのような味で似たもの、焼いた肉、薄緑色のスープ、知らない野菜の知らないドレッシングがけだった。
いや、どれもこれも名前を知らないのよ。
味は美味しかったけど、見た目で想像する食感や味じゃなかったので、違和感が拭えない。
これもそのうち慣れてしまうんだろう。
夕食後はお父さんが魔法で入れてくれたらしいお風呂に入り、寝ることとなった。
ベッドに入り、首から下げた死の触媒を発動させると僕の身体から魂が抜け出て、体と魂が分離した。
暗い部屋が星の中を歩いているようにビカビカしたおり、今まで生きていた生者の世界とは境を越えてしまったことをはっきり感じる。
幽体離脱なんて自由に動けるもんだと思っていたけれど、そうでもなさそうだ。
世界を完全に隔てていて、壁を透けて越えたり、宙を浮いていると言うよりは絵に描かれた紙の上を歩いているような感覚になる。
この状態で盗み聞きや暗殺のような事は出来そうにないし、生きている人の魂に触れられるような事もない。
死の世界へ迷い込んだ、ただそれだけだ。
綺麗だが物凄い不安感を覚えるし不快だし、世界からの疎外感がある。
神様に召された時とは全然違うものなんだな。
なんだかんだ優しいのだ、あの神様は。
この世界は人が居るものじゃないな。
タナちゃんが慣れるものじゃないと言う理由がわかるよ。
僕はパリパリと鳴る床を踏みながら、石碑の方へ向かって行く。
何かに見られている気がする。
石碑には大きな葡萄の様なものが生えており、その実の一つに死属性魔法をかけた。
薄青色のモヤが兵士の形になっていく。
…こんばんは
貴方は、格好を見るに兵士ですね。
「バルサルめ!
我が娘と妻のいる王国には攻め入れさせんぞ!」
前線に配置されていたんですか?
「うぁあああ!
毒!毒だ!
将軍!
私たちは国の盾だが、貴方の盾ではないぞ!」
…そうなんですね。
ありがとうございました。
すぅと青い光が消えた。
会話にならない。
わかっていた事だが、理性もない。
当然だ。
感情、思考にだってエネルギーがいる。
供給するものがない以上、過去の残滓でしかないのだろう。
特別意思が強く、優しい彼女らにしがみついて未練のままこの石碑に張り付いているだけだ。
出来れば話合いで解決する方法を見出したかったが、もしかすると無理なのか…?
方法を考えなければならない。
その後もいくつかの粒に魔法をかけて話を聞こうとしたがほとんど同じようなことの繰り返しだった。
自分の身体に戻った僕は、台所へ行き水を飲み、また部屋へと戻った。
「タナは凄いな、あれに信仰されて慈悲を与えられるんだから。」
石碑についた葡萄のような粒は何百とあり、数えるのも億劫な程だった。
あの一つ一つが未練であり怨念のようなものなのだろう。
僕が診ていた救えなかった子供達も、あんな風な粒になってどこかに張り付いているのだろうか。
悍ましさに背筋が冷たくなり、僕はやっぱりタナに一緒に寝て貰えばよかったな、と思った。
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