第33話 子供部屋


「お祈りは終わりましたか?

息もしないくらい、真摯なお祈りだったからちょっと心配しちゃった。

私もそのくらい深いお祈りできるようになると良いなぁ。

すごいねラルフちゃん。」


ありがとう。

途中死んでたんから、息どころか脈もなかったよ。


「ラルフ死んでたね!

すぐ死ぬんだから!

もー、言ったばっかりなのにー。」


ごめんごめん、タナちゃん。

神様に会って来たんだよ。


「それも良くないってばー。

もー。

私が面倒見てあげるんだから、簡単に死なないでね!

私は先生の娘みたいなものなんだから、ラルフのお姉さんなの!

気をつけてね!」


そうか、そんな風に思ってくれていたのか。

なら僕もそう思おう。

姉が背負っているものを分けてもらおう。


やるにしても今じゃないな。

日が照る時間だと「彼ら」の力が弱すぎる。


皆んなが寝静まってからだ。

そういえばタナは眠るのだろうか。


「パイは美味しかった?

お姉ちゃんってどうやって食べたり寝たりするの?」


「お姉ちゃん!

あら、ラルフってば、なんでも知りたいお年頃なのね。


美味しかった〜。

パイは普通に食べたよ?

そこに残ったパイは抜け殻みたいなもので、味もあるしお腹には溜まるけど、もう満たしてはくれないの。


寝るのも普通に眠るよ?

なになに?一人で眠るの寂しいなら一緒に寝てあげるわ!

お姉ちゃんだからね、私は!」


はい、ありがとうございます。


「じゃあ行きましょうか、ラルフちゃんの部屋はこっちよ。

ついて来て。」


案内された部屋は廊下の奥から二番目の部屋だった。


「ここよ。

誰も使っていない部屋で客間にしていたんだけど、ちゃんと掃除してあったから今日からここで寝て大丈夫だから。

みんなの部屋にはネームプレートが付いているんだけど…。

ぺぺさんがそういう木細工が好きで作ってくれたものだから、夕飯の時に頼んでみましょう。」


うん。

ネームプレートか…。

この部屋のドアにも掛かっていた形跡があったな。

プレートを掛ける釘の跡があった。


「ぺぺさんって器用なんだね。

ありがとう、ララさん。

じゃあ僕は少しゆっくりしてるよ。」


部屋からララさんが出て行き、部屋に二人だけになった。


「ここって、タナの部屋だったの?」


「え?私に部屋なんてないよ。

皆、ラルフ以外誰も私のこと見えないんだから。」


それは寂しいね。

タナからは皆が見えているのに。


…少し変だ。

タナはエマが元になった精霊だ。

だからサシュマジュク、ジェマさんのことを父と言い、僕を弟扱いすることに違和感はない。


直接そう、と聞いてはいないけれど推測はできる。

エマが死んだタイミングは分からないが、この屋敷が出来たのは戦後だ。

褒賞でもらった、元戦地だからだ。


戦中の霊を鎮めるために建てられた石碑、その頭にエマの名が書かれているのだ。


ならこの部屋はエマの部屋であるはずがないがこの部屋は間違いなく守られるものの為の部屋だ。

奥から二番目、奥はジェマ、手前はシーさん。

戦えるものに挟まれていることから分かる。


決定的に矛盾している。

屋敷を建てたタイミングと死期が合わない。


「この部屋って元々誰の部屋だったの?」


「さぁ?

ずっと空いている部屋よ?

客間だって言ってたし、そうなんじゃない?」


客に奥の部屋は用意しないでしょ。


エマとタナは本人が言う通り完全な同一人物ではない、しかし神様が肯定したのだ。

間違いなくエマと混じっているものがいる。

そのせいでエマはタナになっている。


「お姉ちゃん、戦争っていつまであったの?」


「9年くらい前だったと思うよ!

先生が40歳になる頃で私はその頃に生まれたから間違いないよ!」


55歳くらいだと思ったサシュマジュクさんは実際は49歳だったのか。

病気もしてたしな…。

やつれてたもんな。


「戦争が始まったのは?」


「7年戦争って言われてるから7年前!

詳しいでしょ!

お姉ちゃんだから!」


あぁ、そうか。

先生の初めての生徒が子供なわけないじゃないか。

肖像画は子供だったし、タナとよく似ている。

混じったのが悪霊だと思っていたけど違うんだね。


僕はとても悲しくなった。

君に名前なんてなかったのか。

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