第32話 なぜこの地へと


「また、召されましたね。

あの石碑は小さな神様そのままですよ。

タナはその小さな神様の使い、と言うところで神様そのものを鑑定すると人間では受け止められません。

神を覗くと本来そうなるんですよ、心か、頭か、瞳が耐えられません。


私と貴方の相性がいい、と言うことはそう言うことです。

私と対して貴方は偶然平気でいられる、それが大切なのです。」


タナにあんまり良くないって言われちゃったよ。

神様との距離感。

実はしばらく前から感じていたんだ。

死ぬことに慣れて来ているなって。


「死に慣れる…ね。

そのマズさは貴方が一番よくわかっているでしょう。

そして、必要さも。

私との相性のいい中で一番死に忌避感が薄い人を選んでいるのですから。」


そうだろうね。

前世の仕事柄、誰か死んだからって悲しんでる場合じゃなかった。

でも慣れてなんていないよ。

どの子が死んでも悲しかったさ。

表に出さなかっただけで。


「そうですか、医者の不養生とはよく言ったもので、貴方は死ぬまで誰かの為に働いていました。

私が言う忌避感は、他人の命じゃなく、自分の命の話です。

逆に考えたことはありませんか、ここで命を燃やさずに一人の小児科医が生きればこの先何人の子供を救えるかも知れないと。」


…。


「英雄の精神性だと思いました。

しかし報われて無さすぎると。

なのでこの世界に呼んで、一つ能力を与えて送り出そうと。


しかし、今世も癒しの力で死んだり、召される間際に命を燃やすほどの聖属性魔法を使ったり。

今回の石碑への鑑定は何を知ろうとして使ったのですか。

死ぬ予想が出来ていたでしょう。

タナを鑑定した時に大きな反動が来ていたのだから。」


…出来てたね。


「自分の命を軽視し過ぎです。

私が確実に復活してくれると微塵も思ってないのに、上手くいけば解決に繋がるかも、で命を投げ出した。

生き返らせるときにあった懸念が当たった形になります。」


丸一日悩んで能力を決めた。

しかし、その丸一日の大半は生き返るかどうかを迷っていた時間だ。

神様とはこんな能力なんてどうだろうなんて話をしていたが、理想を言えば前世に戻って残した患者を診たかった。


それで選んだのが瞬間移動だ。

神様からもらうレベルの空間の移動なら次元を越えられるかも知れないと思ったからだ。


光速移動も同じく、光の速さを越えられれば可能性があるかも知れないと思ったのだ。


まさか他の部分が生身だとは思わなかったけどね。

神様には便利そうだからとか当たり障りのない考えを話していたけど恐らくバレていたんだろうね。


力はよく分からないうちに死んで能力没収されても問題ないし、強い内に旅をしてこの世界の医学を集めようと思ったし、知識は神様チョイスだから置いておいて、癒しの力、聖属性魔法、鑑定全て病気を治すことに繋がりそうだからだ。


「サシュマジュクさんは、この世界の小児科医なのか?

医者で学校を運営してて、孤児院も経営して、子供に特化した医者がいない中でほぼ、唯一の。」


「そうです。

貴方に一番精神性が近い、心は親子と言って良いほど似ていますよ。

確かに、サシュマジュクの近くに生まれ変わらせた理由の一つでもありますね。


もう一つありまして、タナのような…精霊と貴方は呼んでいましたね。

現象の塊が知性を持ったり、未練の塊が意志を持った…貴方の知識と合わせると悪意のない悪霊とでも言いましょうかね。


還るべき魂の残留です。

貴方の様に前世の記憶はないですが、なすべき事も分からぬまま、残り続けてます。


小さな神様、と表現したのは信仰があるからですが…


ま、彼女とも気が合いそうでしたしね。

神性を得てしまっているので、私には何も出来ませんが、一人誰にも気づかれないまま石碑を悼み、守り癒すなんて悲しいじゃないですか。」


「確かに友達になれそうだよ。

それにしても…タナは悪霊か。

あんな小さい子がそうなる出来事があったんだな。

まぁなぁ、経験がある訳じゃないけど戦争があったと聞いているから想像はつくよ。」


「それがですね…。

タナは不思議と悪霊じゃないのですよ。

善性と信仰で本当に小さい神なのです。」


…そうか、すごいなエマちゃん。


「気がついていたのですね。」


まぁな。

たった6人の信仰で小さな神様になるほどの真摯な、真剣な祈りなんて全くの他人に捧げられるものではないよ。


何より似すぎていたよ。

サシュマジュクさんの園の私室、そこにある小さな姿絵にね。


「先ほど言った通り、神性を得たものはなにものも神の手を離れます。

しかし還らずの魂という事には変わりありません。

そして彼女には他の信仰も受けています。

本来悪霊になるはずだった未練の塊たちがいる石碑、彼らの安らぎと救いになっているようですね。

小さな神様の神様。

それが今のエマ、タナです。」


「そっか…。

死んでまで働いてんのか、あの子。」


しっかし、現状にそんなに不満なさそうなんだよなあの子。


「能力はなににしますか?

本当に、タナのことは気にしなくたっていいのですよ。

サシュマジュクの事だって、なんとなく気が合いそうと思ったのも大きな理由だし、タナの事もそうですが…。

別に貴方が無理しなくたって、時間をかけて石碑が救われた時に、彼女も救われるでしょう。


貴方が生きている間は仲良くして下さい。

私としてはそれだけでも、充分です。」


それはいつまでよ。

いつまで悪霊の神様をやり続けなきゃいけないんだ。

子供が、死んでまで。


「霊媒、幽霊と話す能力その辺の能力をくれ。」


「わかりました。

死属性魔法の力を与えます。

今は失われた魔法になりますし、触媒はあまりに珍しいので授けておきます。」


おー。

まずは使い方から調べてみるよ。


「それと、生き返ったら話し方を直してくださいね。

前世の話し方に戻っていますよ。

身体にひっぱられてそのうち治るでしょうが、すぐそばにララがいるんでしょ?

急に子供がおじさん口調になるのはキツいですよ。」


それはヤベェ。

わかったよ!

ありがとう神様。


初日から家族に馴染めなくなるところだった。

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