第31話 自立

近くで見ると、精霊が宿っているだけあって厳かな雰囲気があるな。

石碑に敬意を払わせられる様な、不思議な感覚だ。


中身はあんななのに。


「あんなってなにさ。

それにしても…。

貴方やっぱり神気を感じたりしちゃってるね。

よくないよ?

あんまり死が馴染んじゃうとさ。


貴方は何かを成す。

それは間違いないよ。

だって精霊の私から見ても異常に神様に近づいているのだから。


心当たりあるでしょ?


英雄は死なないと英雄じゃないよ。

生き続けて、死なない英雄なんて怪物と同じなんだから。

死は安らぎの側面もある。

死は恐怖でもあるけど、救いでもある。

自分の死に何も感じないのは、間違っているわ。」


急にフレーバーテキストみたいなこと言わないでよ。

でも言ってることはわかるよ。

僕はこの世界に来てから自分が死ぬことに何も感じていない。

神様のところに行くのか、程度だ。


初めは神様の同情で生まれ変わり続けてるのだと思っていた。

ただの幸運だと。


しかし、もう何度も何度も死に、生まれ変わり流石に分かる。

今は同情で生き返らせてなんていない。

役目がある。


あの神様は僕に何かしてもらわなきゃいけないんだろう。

その内の一つがサシュマジュクさんを死なせなかったことだろう。

あまりに接触し過ぎているし、若返らせてもいる。


僕が気が付かないようにふわっと方針を決めて誘導している節もある。

そして神の力を借りた僕を2度も殺させているのは、絶対に偶然じゃない。


サシュマジュクさんに、お父さんに何かがあるのか、それともそこからつながる何かがあるのか、それはまだわからない。


「ララさん。

神様が人間に望んでいることってなんなんだろうね。

幸せになったり、そうでもなかったり、楽しかったり悲しかったり。」


「わたしは先生やシーと比べると神職じゃないし魔法使いでもないから、神様がどうとかわからない。

神様を先生達ほど近くに感じない。


後悔とか、やっぱりあるし。

神様ひどいよって思ったこともある。


石碑を建てることになったとき、お父さんやお母さんは死んじゃったんだなって、すごく実感して悲しくなったんだけど、少なくとも建てたことに後悔はしてないのよ。

不思議よね。

皆んなで話して建てたけど、各々皆んな、それぞれで決めたのよ。

理由も近いかも知れないけど多分バラバラ。

でも自分で決めた。


その時思ったの。

悲しいこととか、辛いこととか、嬉しいこととか楽しいことは自分で決めなくちゃいけないって。

だからわたしは先生みたいな神職の家にいるけど、あまり神様を頼っていないと言うか…。


自分で決めて、生きて死ぬことにしたのよ。


でも親が子供に願うことってそんな様なことな気がするけどな。

心の片隅に置いて、たまにちょっとだけ支えにして、なるべく自分の足で立つ。

それが大人ってもんでしょ。


だから誰よりも、人類の親なんていわれる神様が子供たちに望むことなんて、自分の足で立って頑張れ。

くらいなものなんじゃないかしら。


自立ってやつね。」


自立か。

そうだな。

僕は僕で決めよう。

神様がなにをして欲しいか考えるより、そうやって生きていこう。


そう言えば神様は毎回幸せな人生を送れることを祈ってくれたな。

体に気をつけてねってのと同じか。

もう会えないかも知れないけれど、それを心の片隅に置いて、自分の足で立つのだ。

そして誰かを助けた時に、偶然神様の助けになれたら素敵じゃないか。


「私もそれでいいと思うわよ。

一つ大人になったわね!

それで…お皿はいつ置いてくれるのかしら。」


ごめんごめん。

置くよ、お供えさせていただきます。


さ、一生懸命石碑の人たちの安寧を願って、部屋に行こう。


…文字がまだはっきり読めないな。

鑑定で詳しく見てみたら、別のことが分かるかもしれないね。


祈りのポーズのまま石碑を鑑定すると、どこかから、あっ!バカ!と聞こえた。

目を開けると神様が目の前に立っていた。


自立を心に誓ったばっかりだっていうのに…。

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