第14話 不幸とは その2

しばらくしたあとに、立てるかと言いながらサシュマジュクさんが僕の両脇に手を差し入れ立たせてくれた。


「…カル、ここの教会の裏手には清めの泉があったな。」


汚れた僕をみていったのだろう。

確かになんか全身ざらざらする。

カルロスがありますね、と言い懐から赤く光るペンダントを取り出した。


「はい君、これを使ってここの裏の洞窟の中には清めの泉っていう、ちょっとピリピリする水があるんだ。


これはなに?


「…これはね、こう魔力を込めると火が出る道具だよ。使えるかい?」


ハッと力を入れてみるが、そもそも魔力という物が分からない。


困っていると、ちょっと待っててね、とカルロスさんが教会の方へと走っていった。


すぐに戻ってきた彼の手にはランタンがあり、それに火を入れてくれたようだ。


「これを使ってね。

そんなに深い泉から溺れる心配はないけど、とても強い力があるから、あんまり長く入ってはいけないよ。

顔のところによく無い物があるから、出来れば顔も少しつけて欲しいんだけど、目はギュッとしっかりつぶって洗うんだよ。

危ないからね。」


そういうところがあるのか。

癒されたりするのかな。

異世界って感じ!


「じゃあ、いって、くる。」


少年はランタンを持ち、泉のある洞窟の方へと向かった。


きちんとした足取りで洞窟へ向かっている様子に二人は安堵していた。


「あの子はこれからどうなるのでしょうか…。」


呪いを持つと思われ、その原因は悪魔に捧げられたことだ。

身体には紋様が浮かんでおり、それが例え清められ消えたとしても、ろくな教育を受けておらずこれから大変だろう。


「私が育てるよ。

なに、教育を施されていなさそうだが少し話せていた。

つまり知能に問題もない様だから、大丈夫。

やり直せるし、そのためのサポートはしっかりやる。

しかし…容姿がな…。

神職が見受けするには不都合が多すぎる。

カルの様な者たちはただ綺麗だと感じるのは分かったが、我々には余りにも尊い存在に瓜二つなのだ。


それでも私が後見するしかあるまい。

神職の中でも彼を利用する野心がないものでないと何に利用されることになるかわからない。


心配するな。

これでも教え子の子供には多少懐かれているのだ。

これまでの分幸せな生活をさせてやりたいな。」


「そうですね…。

俺も協力しますよ。

身体の動かし方とか、近所の子供に教えてあげたりしているんです。

門番ってのは、兵士の中でも中々エリートなんですよ?」


「そうだな。

私は魔法を教えよう。

剣も魔法も使える様になり身を守れればそれがいい。」


二人はこれからを考えて優しく笑った。


丁度少年は洞窟へしゃがんで入っていくところだ。


不幸とは。

幸せではないことである。

幸せでない状態が続くことである。


ドンっと大きな音がした。


狭い洞窟の入り口からは爆風が吹き、そこから二人の足元にランタンの破片だと思われる物が飛んできた。


幸せではない状態

不自由

空腹

理不尽

嫉妬

不運


様々な要因があるがそれが続くことである。

それが不幸。


不運といえば、洞窟の泉はギリギリ人体に負担が少ない程度に強いアルカリ性の水だ。

流れ出る奥には強アルカリ性の溜まりがあり、それが湧水と合わさり流れ出て、人が入れる濃度になっている。

その強アルカリの溜まりにこの世界ではとても珍しいアルミニウムで出来た金属の塊が入り込んだ。

自然界に存在しないアルミニウムだが、偶然アルミナから変化させた者がおり、銀色なことから聖銀なのではと、自分の先生に送った物だ。

サシュマジュクの紋章である。


この二つが合わさるだけでもこの世界では奇跡と言っていい。


アルミニウムは強アルカリに反応して激しく溶け出す。

その際に大量に水素が発生し、入り口の狭い洞窟内に充満した。

しかし水素自体は反応しやすく、アルミニウムが全て溶け出し、しばらく時間をおけば問題なかっただろう。


しかしそこへ火種を持って入ってしまった。


奇跡的な不運が続き、その不運が連鎖した結果大爆発が起きた。

不幸にも少年は爆発に巻き込まれてしまった。



幸せではない状態。


例えば、罪悪感を背負い続けること。



なぜついて行かなかったのか

なぜ悪魔の罠が残っていると考えなかったのか

なぜ…


善良な彼ら二人はたった今、不幸になった。

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