第12話 いつもの祭壇前は人数制限で利用できませんでした。

教会に佇む男がいる。

壮年で白髪の難しい顔をした男だ。


もう2時間ほど考え込んでいた。


彼、サシュマジュクは反省していた。

経典に照らし合わせるとほぼ確定で悪魔とはいえ、ほぼ、だ。

確定していない者に自身最高の魔法を怒りのまま放ってしまった。

少年と青年の間ほどの歳頃だったことも気に掛かっていた。

彼は教育者として尽力し、この世界最大の学舎の長だった。

子供が好きなのだ。


祭壇の前にある長椅子に少しの間座っていた彼は立ち上がり、体の調子を整え魔法を行使した疲れが歩くのが億劫になる程ではないことを確認して教会を出て魔法が炸裂したであろう地点を遠目に見ていた。


大きく焼けこげた地面はドアからやや左にズレて炸裂した様だった。

怒りで魔法がブレたことはわかったので、そのまま抵抗もせずに当たったのだろう。

威力に流されたままやや左に行ったと推測できる。


「紋章は拾って帰らねばな。

神の祝福を受けた銀だ。

神の力を借りて放った魔法では傷がつくことはないだろう。

それにしても聡明な者だった。

悪魔に生まれてさえいなければな…。


しかし…抵抗もせずとは。」


じっと焦げ跡を見つめていると、街への道から人が走って来た。


「サシュマジュク様、ご無事ですか。」


彼には見覚えがあるな。

門兵で同僚からカルと呼ばれていた青年だ。


「もしかして街から魔法が見えてしまったか…。

騒がせてしまったなら申し訳ない、カル。」


カルは恐縮した様子で

覚えてもらっていたことに驚いていた。


「魔法の光が見えることはたまにあるので問題ないのですが、その…大きさが。

この間街に出た筋肉の巨人の魔物へと、数人がかりで行使した魔法に近いものをお一人で放っていたので、もしかしたら動けなくなっているのではと思って…。」


いい子だな。


「ありがとう、カル。

あの時は次を放たねばならん可能性があったからな、弟子たちの力を借りたのだ。


今回は当たる算段もあったし、前準備もした。

、ほら聖なる種火も持っている。」


と、サシュマジュクは柔らかく光るネックレスを見せた。


「あれ?サシュマジュク様、いつもそのネックレスにつけている紋章はどうしたんですか?」


「おや、知っていたか。

それがさっき言った前準備というやつだ。

あれはな、魔力を増幅させる効果があって普段は手元で大きくしてから放つのだが、やはり届くまでにロスがあってな。


それをそこの悪魔に持たせてから放ったので、手元で小さくとも当たる際には大きくなったのだ。

恐らく街から見えたのは炸裂した瞬間だろうな。


なかなか貴重なものなのでな、拾って帰る所だったのだ。

もったいないのでな。」


サシュマジュクはニッと笑うとカルを引き連れ、焦げ跡の方へと歩き出した。


…何かあるな。


近づくにつれ心臓が打つのが早くなってゆく。


「何ということだ…。」


その中央に倒れた子供がいた。

恐らく7、8歳だろう子供が。


「これは…サシュマジュク様、子供の見た目をした悪魔だったのですか?」


「いや、違う。

間違いなく退治した悪魔だろう。

周りに他に誰もおらず、人間だとしたら原型を保っておらんだろう。


うむ…初めて見る現象だが、もしかしたら子供に取り憑いておったのかも知れないな。」


可哀想に…


涙が出そうになるサシュマジュクは、その子供に息がまだあることに気がつき、走り寄っていった。


何ということだ…

残酷な!


その少年の顔には黒く邪悪な樹木のような紋様が浮かんでいる。

悪魔の呪いだろうと思い彼は血が出るほど手を握りしめた。


彼は子供が好きなのだ。

涙も鼻水も流れ出している。


実際は雷に似た性質の聖なる種火を利用した魔法の残滓が地面を溶かしガラス化させた際に発生した、リヒテンベルク図形が丁度その上に生成された彼の顔にスタンプされただけなのだが、そこにいるものでその知識を有する者は、冷静さを著しく失っていた。


後ろの兵士が引く程に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る