第11話 信者った
「流石にこれは私のせいではないですよね。
敬虔な信者だと思ってたのに…。
あんなに融通が効かないとはね。」
融通の効かない能力を与える神様の信者なんて融通が効かないに決まってるじゃない。
「でも大成功ですね!
1時間に迫る滞在時間でしたよ!
画面の右下を見てください。
46分52秒!
10分の大台を超えてさらに30分までも超えました!やりましたね!
いい提案をしたものです。」
人生としてはとんでもなく短いんだけどね。
セミなんて目じゃないよ。
何を喜んでいるのだろう。
「悪魔って言われましたよ、僕は。
この名前やっぱり良くないんじゃない?
神様の名前なんて言われちゃったよ。
神様は目の前の神様だと思っていたのだけど違うの?
神様の名前なんはなんていうのさ。」
「ラルフィードですよ。」
なんなんだよ!
そりゃ怒るよ!
敬虔超えて狂信者かと思ったけどサシュマジュクさんは教義的には当然の事をしたのかも知れないや。
「ラルフィードという名前を信者が口にすることなんて大掛かりな儀式の時以外ないので、大丈夫だと思ったんですけどね。
自分の名前なんてちょっと忘れていたくらいですし。」
逆だと思う。
無闇に出せないくらいの名前になってるんだ、きっと。
全然伝わってないのか…。
「やっぱり名前を変えて欲しいです。
きっと彼らにとってとても大切なものなんだよ。それを簡単に名乗るなんてよくないと思うんだ。」
「そうですか…。
それでは覚悟はありますね?」
…やめてよ。
怖いって。
普段穏やかな笑顔を絶やさない神様の真顔は本当に怖い。
「名前を一度消すのは大変な事です。
名を失うというのは罪に対しての罰として与えられるか、大業を成し遂げて上の存在へ消化したものに与えられる特権みたいなものなのです。
あとは神に捧げられるようなものもそうなることがありますね。
しかし現在の存在と文化的なアイデンティティを否定することに近い上に今回は神から与えられたものなのですから。」
名前ってすごい力持つなんて聞いたことがあるもんな。
でもやっぱり変えた方がいいと思う。
サシュマジュクさんたちの信仰を踏みにじってる気さえしてるんだ。
踏みにじってる大元は神様本人なんだけどさ。
「それでもお願いするよ。
やっぱり罪悪感が拭えない。
せっかく貰った名前なのにごめんね神様。」
「…わかりました。
それでは3つ程方法があるので、選んで頂きたいのですが、一つ目は悟ることです。
悟りを開き自己を昇華させる事で新たな存在に生まれ変わる方法ですね。
与える能力は信仰です。」
名前変わる前には絶対に選べない方法だ。
信仰心の塊でも存在が不敬なんだ。
この悪魔めパート2が始まるだけだ。
恐らくすごく時間がかかるしね。
今の僕にこの神様への信仰は無理だ。
町内会長程度の尊敬度しかないんだから。
これはダメだ。
「次に先程話した様に大罪を犯すことです。
名前を世に残せないほどの大罪を犯して下さい。
そのための能力は自身で選ぶのがいいでしょう。
普通なら神罰確定ですが、今回は私の責任も少しあるのでみのがしちゃいましょう。」
絶対ダメだ。
そして想像もつかないよ。
世に残せないほどの罪ってなんだ?
結局悪魔になってしまうじゃないか。
そんなやつ見逃すんじゃないよ。
じゃあ消去法で3つめか。
「最後の方法は大衆に名前がないことを認知させる事です。
誰かわからず、名前もわからず、過去さえなくしているものだと深く刻まれる事が出来れば、命名の神威がかなり下がり変更できる様になるでしょう。」
これはそんなに難しく無いんじゃないかな。
元々この世界の人間じゃないし、過去を遡りようがない。
誰かも名前も知ってる人が確実に居ないのだから、何の問題もないはずだ。
「3つめにするよ。
今の僕の境遇だとそれが一番向いていると思うからね。」
あ、でも見た目は変えてもらわなきゃいけないかもしれないね。
前回サシュマジュクさんにはっきり見られているから。
「そうですね。
では今までは前世の貴方をベースにしていましたが、私の方で変えてしまいましょう。
その方が別の存在という意味で今回の趣旨にも合っているかも知れませんし。」
僕が頷くと神様は右手をあげた。
いつもの転生前のやつか。
体から光始めた時に聞き忘れたことを思い出した。
「そういえば神様、今回頂ける能力はなんなの?」
神様は左目だけをあけ
「おぉ、言い忘れていましたね。
今回の貴方への能力は
不幸
です。」
目の前が真っ白になりながら当然僕はこう思った。
早まった…!
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